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ヒトラーの呪縛(下) - 日本ナチ・カルチャー研究序説 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

佐藤 卓己 編著の「ヒトラーの呪縛(下)」を読破しました。

普通は上下巻の文庫を読もうと思ったとき、まとめて入手するんですが、
本書は果たしてどんなモンなのか?? と少し不安で、まずは上巻だけを試し読み・・。
しかしそんな不安をよそになかなか楽しめましたので、早速、下巻に挑みます。

ヒトラーの呪縛下.jpg

第6章から始まるこの下巻はまず、「コミック&アニメ」です。
ヒトラー自身を主人公とする娯楽マンガとしては、戦後少年マンガの巨匠として双璧を成す、
手塚治虫の「アドルフに告ぐ」と、水木しげるの「劇画ヒットラー」を詳しく比較。
前者はフィクションであり、後者は史実に基づいて描かれているという相違はあるものの、
戦時中は銃後にいた手塚と、戦地で片腕を失った経験のある水木との違いも指摘します。

「週刊少年ジャンプの友情とナチス」として・・、「リングにかけろ」からはJr世界大会準決勝、
対戦相手の総統スコルピオン率いるドイツチームは「Jrナチス親衛隊」であり、
メンバーはゲッペルス、ヒムラー、ゲーリングとそのまんまで何の捻りもナシ。。

ヒムラー. ゲッペルス. リングにかけろ1.jpg

「サーキットの狼」では、暴走族ナチス軍ポルシェ隊総統のカレラには鈎十字が・・。

サーキットの狼プラモデル「ポルシェ・カレラRS(早瀬左近.jpg

「キン肉マン」になると、「ブロッケンマン」が口から吐き出す毒ガス攻撃にラーメンマンも悶絶。
実況も思わず、「ま、まさにナチスガス室の恐怖を再現しております!!」。
ん~・・。そう言われてみると、なんとなくそんなことも記憶の片隅に・・。

ブロッケンマンの毒ガス攻撃.jpg

この章はタイトルが「デスラー総統はドイツ人か」というくらいあって、
当然、「宇宙戦艦ヤマト」も分析します。
副総統の名前がレドフ・ヒス、
勇将ドメルとゲールに至っては最初のうちロンメル、ゲーリングと呼ばれていたと。。
それでも松本零士曰く、「デスラーはヒトラーと関係ない」。

レドフ・ヒス.jpg

しかし総統デスラーと聞いて、彼を善玉だと思う読者や視聴者は皆無であり、
容赦なき侵略者としてピッタリのイメージで、正義の味方がぶっ殺しても後腐れが無く、
なにより名前の響きが「カッコいい」のであって、
総統ピーターソンや総統ワタナベでは「サマにならない」と分析。

2008年にはヤマト公開30周年を記念して、「デスラー総統ワインセット」が発売され、
13650円も完売。。特典としてデスラー勲章と、
デスラー総統の訓示を書いたリーフレットも付いていたそうな・・。

ヤマトデスラー総統ワインセット.jpg

それから「ガンダム」のナチスチックな部分についても解説してますが、
ヴィトゲンシュタインはまったく見てないので割愛・・。
また、ミリタリー・マニアたちに熱烈な支持を受けるマンガ家として、小林源文も紹介。

そして1990年代、日本マンガ文化の「国際化」によって、海外輸出文化となり、
ポケモンカードの卍がユダヤ系団体から抗議を受け、回収するような環境です。
グローバル化するマンガ市場がある一方、ローカル化する「同人マンガ」という二極化が進み、
コミケにおける「ナチ・パロディ」、ナチスの少女マンガ化へと話しは移っていきます。
あ~、この世界は全然だめだ・・。



第7章は「トンデモ本」・・。
イヤな予感がしますが、予想どおり落合信彦の「第四帝国」からです。
コレは「ジョーク本」というカテゴリーがある独破戦線でさえ、紹介しなかった、
というか、半分まで読むのがやっとこさ・・という、超トンデモ本ですね。
何というか、馬鹿らしいのに真面目にやってて、ソコに笑いが無いのがいけません。。

しかし矢追純一 著の「ナチスがUFOを造っていた」には笑いがあります。3回は爆笑できます。
本書でもドコがどうトンデモなのか、同じような指摘をしてますねぇ。

hqdefault.jpg

もう1人著名な作家としては出ました、ノストラダムスの大予言で知られる御大、五島勉の
「1999年以後 -ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図」で、この本でヒトラーは、
後藤久美子や今井美樹、菊池桃子に中山美穂といった1980年代後半のアイドルまで予言。。
7月にコレが加筆、改題され「ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年」として復活しました。



そして五島勉を遥かに上回る超絶なトンデモ本も存在するそうで、
それは「滅亡のシナリオ―いまも着々と進む1999年への道」。
このタイトルには「原作:ノストラダムス 演出:ヒトラー」と書かれているように、
ノストラダムスがヒトラーを予言したのではなく、ヒトラーはノストラダムスの予言を
成就させるために全ての行動を起こしていたのだ・・と主張。
著者は精神科医の川尻徹氏・・。

この人は栄えある第一回「日本トンデモ本大賞」の受賞者であり、
かの麻原彰晃も熱心な読者だったそうです。ソコまで曰くつきだと読んでみたくなりますね。。

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ヤコブ・モルガンなる人物が書いた「誰も書かなかった昭和史」は、
ヒトラーはフリーメーソンだった説を展開。
大戦はドイツや日本などの非ユダヤ国家を壊滅させるために、
米英仏のユダヤ国家が仕組んだ陰謀・・だという論理を貫くこの本では、
スターリングラードでのドイツ軍の敗戦も、
ヒトラーがあらゆる戦局で勝たないよう予定通りに指導したから・・というもの。
この論理でいくと、失敗した作戦を立案した将軍は、全員フリーメーソンです。



トンデモ本作家はまだいました。大川隆法先生です。
7月にも「赤い皇帝 スターリンの霊言」を刊行していますが、
2010年には「国家社会主義とは何か」という本でヒトラーの言霊との対話記録を掲載。
本書でも中国が日本に侵攻する場合の具体的な戦略を気楽に語る
ヒトラー(の言霊)との対話を1ページ抜粋しています。
ヒトラー・・「やはり電撃戦しかないね。基本的には電撃戦を勧めてる」。
あまりにアホらしいんでカッツアイ!



昨年、ちょっとした話題になった「眠れなくなるほど面白いヒトラーの真実」の話もありました。
ドイツとイスラエルの大使館から抗議を受けて、ローソンが早速店舗から撤去。
このようなヒトラーとナチスの「すごい」ところだけに焦点を当てた出版物に目を光らせているのが
サイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)であり、2003年に戦犯追及の終了を宣言した現在、
ユダヤ陰謀論などを提唱する団体の摘発、つまり「歴史パトロール」機関と化しています。
まぁ、個人的には閉鎖してもらって構いません。。

第8章は「文芸」・・。上巻からここまできて、「文芸」とは何ぞや?? と思いましたが、
帚木蓬生の「ヒトラーの防具」といった日本人作家によるナチス小説をまず紹介。
続いては三島由紀夫の戯曲として有名な「わが友ヒットラー」。

わが友ヒットラー.jpg

実のところヴィトゲンシュタインはですね・・、日本人作家の小説類は全然読まないんですよ。
なのでこの章では、幻の兵器「超カルル砲」の謎を追うという五木寛之「ヒットラーの遺産」を
読んでみたくなりましたが、佐々木 譲の冒険小説「ベルリン飛行指令」を購入してみました。



最新の演劇としては去年、再演された三谷幸喜作「国民の映画」が詳しく紹介されています。
ベルリンを舞台に、ゲッベルズと映画人たちとの間で繰り広げられる人間ドラマで、
ゲッベルス役に小日向文世、ヒムラーは段田安則、そしてゲーリングに渡辺徹・・。
このメンツだけで笑えてきます。。

小日向文世_渡辺徹.jpg

第9章は「架空戦記」です。
このジャンルにもあまり手を出したことがありませんね。早い話が「たられば戦記」であり、
思い浮かぶのはリチャード・コックス著の「幻の英本土上陸作戦」くらいでしょうか?
本書ではその筆頭格として以前に「ヒトラー時代のデザイン」だけは読んだ柘植久慶の 
一連の軍事シミュレーションである「逆撃シリーズ」の解説を読むと、
独善的社長のヒトラーや、体面だけを気にする重役ボルマンと積極的にわたり合い、
サバイバルを試みるよう促す物語であるそうで、何だか余計にわからなくなってきました。。

思うに、架空戦記と一口に言っても、大きく分けられるような気がしますね。
1つは歴史のちょっとした「IF」、あの戦役の勝者が逆であったら?? というようなもの、
もう1つには、この章でも紹介されているような、どうやってか「日独決戦」になってしまうもの・・。
まぁ、確かに日本人ですから、日本人の立場で、ヒトラー率いるナチスと戦いたい。。
いわゆる宇宙戦艦ヤマトの第2次大戦版のような戦記であり、
日本軍の武器でティーガー戦車に戦いを挑んでみたい・・という願望を
理解できなくもありませんが、そこまで何でもアリとなると、
読んでいて「だったらもっとこういう展開にしろよ・・」と文句を言いたくなってしまいそうです。

本書では広義の意味での「架空戦記」は現在、
インターネット・ゲームの「艦これ」に見ることができるとして、
戦艦ビスマルクは、プライドの高い金髪の美少女で、育成が難しい戦艦うんぬん・・と解説付き。
どーですか? いまコレをお読みのお父さん方は、話について来れていますか?

艦これ- ビスマルク.jpg

最後の第10章はその「インターネット」です。
1999年時点でも、3000件以上の日本語のヒトラー関連ページが存在する世界。
ナチスを中心とした「軍装店」がネット上にいくつも存在し、ヒムラーの1/6フィギアも買える時代。

また「ヒトラー 最期の12日間」は、映画そのものよりも動画の素材として大人気になったとして、
YouTubeのあの「総統はお怒りのようです」まで紹介します。
確かにナチカルとして確立してますな。

smile.jpg

率直な感想として上巻の方が楽しめましたが、それは個人的にドコのナチカルに属しているか
といったことが理由でしょう。「海外ノンフィクション文庫」、「映画」、「ロック音楽」は
ナチスに限らず、ヴィトゲンシュタインの人生の大半を占めていますし、
逆に若い人や女性なら、下巻の方が楽しめる要素が多いように感じました。

単にナチカルをジャンル分けして面白おかしく紹介している本ではなく、
日本におけるヒトラー、ナチスとは何なのか?
その文化への浸透具合の時代による遍歴を洗い出しながら、
今の時代、どのように向き合うべきなのかにも言及した、考えさせられるものでした。











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ヒトラーの呪縛(上) - 日本ナチ・カルチャー研究序説 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

佐藤 卓己 編著の「ヒトラーの呪縛(上)」を読破しました。

6月に出た文庫上下巻の本書は、もともとは2000年に発刊された単行本。
「日本のカルチャー、サブカルチャーにかくも浸透しているナチスの「文化」。
メディア、海外冒険小説、映画、ロック、プラモデルまで。」という謳い文句であり、
そういえば、この「独破戦線」もある意味、「ナチ・カルチャー」に属するのかもしれない・・と、
軽い気持ちで読んでみました。

ヒトラーの呪縛上.jpg

「序章」では、編著者の「ナチカル体験」を赤裸々に告白します。
1960年生まれですから、ヴィトゲンシュタインより、かなり年上ですね。。
戦争TVドラマ「コンバット」を見るために学校から走って帰った記憶、
そしてサンダース軍曹よりも、悪役のドイツ軍が妙にスマートに見えたことに始まり、
最初に作ったプラモデルは「タイガー戦車」、映画「大脱走」を観れば、学校で大脱走ごっこ・・。

プロレス黄金時代の悪役は、「アイアン・クロー」のフリッツ・フォン・エリックで、
ドイツ系米国人のザ・デストロイヤーは、和田アキ子と出演した「うわさのチャンネル!!」で、
シュタールヘルムをかぶって登場・・。

デストロイヤー.jpg

実物以上にインパクトのあったプロレスラーなら、「タイガーマスク」のハンス・ストライザー。
ハンブルク出身で、リングネームは「ナチス・ユンケル」です。。
へえ~、アニメ版のみの登場のようで、原作を持っていましたけど、初めて知りました。

ナチス・ユンケル(ナチスの貴族).jpg

もちろん、「仮面ライダー」のショッカーはナチ残党の秘密組織であり、初代幹部はゾル大佐
本を読めば、1970年代から刊行された「第二次世界大戦ブックス」が徐々に欧州戦線化し、
別巻「ナチ独逸ミリタリー・ルック」まで刊行されるほどの人気。
当然、「宇宙戦艦ヤマト」のデスラー総統の声にもシビレるのでした。

デスラー.jpg

このような本では、やっぱり著者の年齢と経験というのは大事な要素で、
ヴィトゲンシュタインでいえば、ナチス歴はこの10年弱しかありませんし、
子供の頃に同様な経験をしていても、ナチスに目覚めたり、意識したことはありませんでした。
逆に著者と同年代で、同じようなナチス文化を経験してきた読者も多いでしょう。
特にそのような読者には、懐かしさを持って楽しく読み進められると思います。

また、15年後に再刊された本書は各章のおわりに「21世紀追補」として、最新情報を記載。
映画なら、ヒトラーを人間化した作品として注目を浴びた「ヒトラー~最期の12日間~」、
本ならヒトラーの趣味や食習慣に病歴まで証言によって書かれた「ヒトラー・コード」に、
萌え萌えナチス読本」まで、丁寧に紹介。
ヒトラー サラリーマンがそのまま使える自己PR術とマネジメント術」に至っては
日本における21世紀のヒトラー・イメージの典型として挙げています。
このような本の表紙や人物写真も、ちょくちょく掲載されていてわかりやすいですね。



第1章は「ジャーナリズム」です。
リビアのカダフィ大佐、イラクのフセイン大統領、ロシアのプーチン大統領まで、
独裁的な政治家は「現代のヒトラー」呼ばわりすることが定番となっている日本の報道。
麻生さんの「あの手口を学んだら」発言は、その部分が強調して報道され、
靖国神社参拝問題では、「ヒトラーの墓」と例えた報道も見受けられる現在。

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一連のオウム真理教報道でも1995年に「FLASH」誌が特集を組み、
上祐史浩=ゲッベルス、早川紀代秀=ヒムラー、井上嘉浩=ゲーリングとの類似性を指摘し、
「ヒトラーは敵の報復をおそれてサリンを使わなかったが、
麻原教祖は悪魔の兵器については、ナチス以上の虐殺行為を犯したのである」。
その他、「ガス室はなかった」で有名な、「マルコポーロ廃刊事件」なども取り上げます。

marco.jpg

第2章は「海外ノンフィクション文庫」。いや~、大好物ですねぇ。
本書が取り上げるのは、ヒトラー闘争そのものを舞台とした軍事冒険小説で、
まず、そもそもの冒険小説の定義も説明します。
19世紀、財宝を発見し、美女を救い出す冒険小説には海賊にインディアン、人食い人種など、
「撃ち殺して当然」の敵役をいくらでも供給できたものの、戦後の人種思想ではとても無理。。
そこで、ヒーローが思う存分「正義の暴力」を振るえる悪役としては、
同じ白色人種であり、「過去時制に属する」ナチスしか見当たらない・・ということに。。

なるほど、面白い解釈ですねぇ。
最初の敵役、KGBのソ連が徐々に姿を消していき・・と、ヴィトゲンシュタインも今年、数冊読んだ
「007シリーズ」の悪役遍歴も辿りながら進みますが、現存する国では多少の気も使うからか、
冒険小説に登場する「ナチス」は、決してドイツ人ではなく、
過去に繁栄し、滅亡した「魔人ヒトラー率いるナチス第三帝国」人ということなんでしょう。
その意味では、戦争映画でも機関銃でバタバタとなぎ倒されるドイツ兵は、
ショッカーの戦闘員とほとんど変わらない・・と言えるかもしれません。

ショッカー.jpg

その代表的な例として紹介されるのは「ナヴァロンの要塞」です。
日本でも1980年代以降に「ヒトラー小説」ブームが起こった・・として、
キルスト著「長いナイフの夜」に、ポロック著の「略奪者」など20冊程度を挙げていますが、
「略奪者」は内容はまったく覚えていないものの、しっかり本棚にありました。再読しよう。。



また、小説と言うかはアレですが、デズモンド・ヤング著「ロンメル将軍」が
「ロンメル神話」を創り上げた記念碑的作品とし、その後もロンメル物は大人気。
SSの出てこない、国防軍による「キレイな戦争」なのも、砂漠の戦いが人気である要因の一つ。

Rommel-eats.jpg

海洋冒険小説では、「眼下の敵」にブーフハイム著の「Uボート」が・・。
こちらにもロンメル的騎士道精神が投影されたものが多く、Uボート艦長はヒトラー嫌いで、
同じ船舶に乗っていれば、階級による危険性も関係なく、SSにゲシュタポ、
ユダヤ人問題も絡まないため、不純物の少ない「海の男たち物語」に・・。
アドミラル・シェア艦長が書いた回顧録「ポケット戦艦」でさえ、さながらチェスか、
フットボールの試合記録であり、戦争の悲哀はほとんど感じられない・・と。

dasboot_superbit_lg03.jpg

ヒギンズ著「鷲は舞い降りた」は特別扱いで6ページも書かれています。
細かい記述は割愛しますが、最後はこのように・・。
「シュタイナ中佐は現代人を魅了して止まないだろう。コミケに集うドイツ軍おたくにとっても
「鷲舞」はバイブルであり、シュタイナの名前は殉教聖者の響きを帯びている」。

Kurt Steiner dragon.jpg

他にもスパイ小説としては「偽りの街」、映画しか観てない「針の眼」などを挙げていますが、
カナリス、ハイドリヒ、SIS、キム・フィルビーといった英独スパイ組織が複雑に絡み合った
テイラー著「総統暗殺」というのが秀作だということで、ちょっと気になりますね。

また、ヒトラーは生きていた風の小説では「ファーザーランド」に「SS‐GB」。
片田舎に25年間潜伏していたヒトラーが自ら公開裁判を求めて姿を現す・・という、
「ヒトラー裁判」なんてのも奇想天外ながら面白そう。
なんとなく、ミュンヘン一揆の裁判を彷彿とさせる内容のような気もします。



SF小説の「鉄の夢」は休止期間中だったのでレビューを書きませんでしたが、印象的でしたし、
人間性の闇を描いたモダンホラーなら、「ブラジルから来た少年」と「ゴールデンボーイ」。
ここ最近のものとしては「HHhH」の他、「帰ってきたヒトラー」を大きく取り上げて、
20世紀であれば、こんな作品がドイツ本国でヒットすることはなかっただろうと分析しますが、
全体的に21世紀の「ヒトラー小説」は、前世紀よりもインパクトに欠けると締め括ります。

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その「帰ってきたヒトラー」も10月にドイツで映画が公開されるように第3章は「映画」。
章タイトルは「絵になる不滅の悪役たち」です。
まずは「地獄に堕ちた勇者ども」に始まるイタリア映画の系譜。
日本では「ナチ女秘密警察 SEX親衛隊」としてポルノ扱いで公開された「サロン・キティ」など、
詳しいことは「ナチス映画電撃読本」をご覧いただきたい・・とのことです。



収容所映画ではスピルバーグの「シンドラーのリスト」vs「長編ドキュメンタリー「ショア」の戦い。
圧倒的多数のユダヤ人が救われなかったのに、1200人を救った1人のドイツ人の物語では、
ホロコーストは語れないはずだという批判が相次ぐのです。
しかし、いかにドキュメンタリーであろうとも、そこには「構成」と「意図」が存在するわけで、
絶対的中立ではなく、また、スピルバーグの「まず知ってもらう」という意図も評価されるべきと・・。

そのようなドキュメンタリーのヒトラーとしては、「意志の勝利」に、1960年の「我が闘争」。
後者はDVDも出ていますが、日本で公開されてたんですね。しかもリバイバルまで。。

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娯楽冒険映画では「インディ・ジョーンズ・シリーズ」を取り上げ、
ダース・ヴェイダーのようにナチスを連想させるものなど、「とりあえず悪い奴は黒い奴」論を展開。

まぁ、それでも単なる敵ではなく、ドイツ兵の素顔を見せる映画もあり、「橋」や、
スターリングラード」、「戦争のはらわた」、もちろん「Uボート」も含めてシッカリと解説します。

21世紀に入ると、「ワルキューレ」に、「イングロリアス・バスターズ」といった大作の他、
不謹慎で、ナチカル映画史上、最も画期的・・という「アイアン・スカイ」が・・。
どうやら来年に総統がティラノサウルスに乗ってやって来るという続編が公開されるそうで、
世界上の映画ファンからすでに100万ドル以上の寄付が集まっているそうです。
笑えるのが出資額によって特典があり、15ドルで監督のサインが貰え、
100ドル出すと映画のエンドロールに名前が出る・・。
200ドルなら月面基地の兵士や住人としてエキストラ出演が可能で、
1250ドルからは恐竜に殺される役、5000ドルならアップで喰われるという無上の喜びが・・。

Iron Sky The Coming Race.jpg

第4章は「ロック音楽」です。
ここ数年では「氣志團」やら、サザンの桑田のちょび髭事件など、日本のミュージシャンによる
ヒトラー、ナチスファッションも物議を醸していますが、
1966年にはローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズがSSの制服で「BORGE」に登場。

Brian Jones borge.jpg

1970年代後半のパンク、特にセックス・ピストルズのジョニー・ロットンやシド・ヴィシャスが
ハーケンクロイツのファッションでステージに立ち、新聞・雑誌をにぎわせますが、
別に彼らは思想的にナチズムなのではなく、あくまでファッションとして、
大人たちが眉をひそめるようなことがやりたいという反抗の象徴として・・と解説します。
まぁ、そうでしょう。ヴィトゲンシュタインも中学生のとき、彼らの真似してましたからね。。

johnny rotten destroy.jpg

日本では1978年にジュリーが「サムライ」でSS風のファッションで歌番組に登場するも、
ハーケンクロイツの腕章は黒柳徹子や野坂昭如らからクレームがついて「X」に変更。
GS時代にストーンズ憧れていたジュリーにとって、SSの制服も憧れだったのかもと推測します。

ジュリー.jpg

そして最近の日本のヴィジュアル系バンドにも言及し、彼らがナチの軍服に身を包むことに
「彼らが擬装したいのはゲルマン民族のナチ将校ではない。
ナチズムという妖しいイメージに包まれた夢の世界に存在する現実社会への
対抗価値と呼ぶべきものだろう」とまとめます。

最後の第5章は「プラモデル」。
日本の老舗「タミヤ」、「ハセガワ」を押しのけて、「ドラゴンモデル」や「トランペッター」などの
中国メーカーの進出が著しい現在。
1990年代からは「アーマーモデリング」といった戦車モデル専門誌が相次いで創刊され、
ドイツ軍の特定の戦車を特集した豪華本も出るようになり、なかでも圧巻なのが、
「ティーガー戦車」などのシュピールベルガー著「軍用車両」シリーズだとします。

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ドイツ軍AFVばかりを特集した「グランドパワー」は、別冊「ドイツ武装親衛隊」を出し、
兵器、軍装、デザインについて細かく解説。
思想的な部分は排除され、あくまで「マニア」のかっこいいと思う部分が強調されたこれらの世界。
2000年代には「ワールドタンクミュージアム」が大ヒット商品となり、
最近の「ガールズ&パンツァー」に至っては、ドイツ戦車が出てくるものの、
ヒトラーやナチスといった政治的背景は完全に姿を消している・・とします。



433ページの上巻、本文は315ページであり、残りは「ナチカル資料編」となっています。
章によって著者が違うことから、なかなか専門的な解説と考察がありました。
特にナチス研究の単行本よりも、ナチス兵器の雑誌の方が圧倒的に売れている・・
という話は印象的でしたね。
日本における現在のナチスものというのは、「主義」ではなく、「趣味」だということです。
続けて、下巻に進みますか。



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フォト・ドキュメント女性狙撃手 :ソ連最強のスナイパーたち [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ユーリ・オブラズツォフ著の「フォト・ドキュメント女性狙撃手」を読破しました。

7月に出た本書を見つけたのは、その3週間後のこと・・。
久しぶりに「おおっ」という感じに食いつきました。
109ページと薄い本ですが、「狙撃手」モノを出版させたら右に出る者が無い原書房。
このBlogでも「最強の狙撃手」やら、去年は「戦場の狙撃手」を紹介していますが、
その「戦場の狙撃手」のレビューの最後にこんなことを書いていました。
・・「出撃!魔女飛行隊」のような、ソ連の女スナイパー戦記が読んでみたいところです・・
まさに願いが叶った・・といったトコでしょうか?

フォト・ドキュメント女性狙撃手.jpg

第1章は「大祖国戦争を戦った女性たち」と題して、帝政ロシアが革命によって崩壊し、
女性に選挙権や中絶、様々な文化活動に参加する自由を得た・・という経緯を解説。
1941年にドイツに侵攻されると、国民が総動員され、男性は前線に、
女性は工場や畑仕事に従事しますが、それだけでは満足せず、看護婦、戦車搭乗員、
パイロットとしても活躍することになるのです。
と、ココではあのリディア・リトヴァクがエース・パイロットとして写真付きで登場。
「母なる祖国が呼ぶ」というポスターも掲載しており、ポスター好きにも嬉しいですね。

war-time-posters.jpg

続く第2章はメインの「女性狙撃手たち」。
その一番手として紹介されるのはリーザ・ミロノヴァです。
堂々たる男前の雰囲気で表紙も飾っている彼女。
パッと見、男前女子ゴルファーの筆頭である、成田美寿々似ですね・・。

1941年に高校を卒業したモスクワっ子の彼女はすぐさま志願して、
黒海艦隊第255海軍歩兵旅団に配属され、オデッサとセヴァストポリの戦いに参加。
約100名の敵兵と将校を射殺したものの、1943年9月、肝臓を撃たれて死亡するのでした。

Marine sniper Mironova.jpg

次は・・出ました、309名を狙撃したという伝説のリュドミラ・パヴリチェンコです。
1937年、キエフ大学で勉学に励む一方、グライダーやスポーツ射撃にも興味を持ち、
民間人がパラシュート降下などの軍事訓練が受けられる「オソアヴィアヒム」で
精密射撃を習得したことで、志願後のオデッサの戦いで187人を仕留めるのでした。
セヴァストポリでも72人の敵兵を射殺。
この当時、2等軍曹時の写真は初めて見ましたが、まだ初々しいですね。

Lyudmila Pavlichenko1941.jpg

彼女の「回想」に加え、1942年秋には「北米青年派遣団」の一員に選ばれて、
アメリカ大統領と面会した初めてのソ連市民となるのです。
さすがの有名人だけあって、その全米ツアーの写真も掲載しながら14ページを独占。
そんなパヴリチェンコを主人公にしたロシア=ウクライナ合作映画 『セヴァストポリの戦い』が
作られましたが、公開予定は・・???



ちなみに「オソアヴィアヒム」なるものについても1ページ書かれていて、
正式には「ソ連国防および航空・化学産業支援協会」という名で大都市近郊にあり、
最終的には600万人から900万人の会員を擁したということです。
そしてこの「オソアヴィアヒム」の各種記章や、射手の記章も写真付きで紹介しています。

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3人目の女性狙撃手はニーナ・ペトロヴァ。
万能のスポーツ選手で1932年には体育教師の免許を取得。その時、39歳・・。
その後、レニングラードの狙撃学校で腕を磨き、そのまま狙撃教官になるのです。
1941年、ドイツ軍が迫ってくると、徴兵指令所に赴くものの、48歳の彼女は不適格・・。
それでも腕に自信のある、このおばちゃんは義勇軍第4師団に加わると、
すぐに軍の教官に抜擢され、狙撃手として下士官では最高の階級である上級曹長に昇進し、
狙撃手グループのリーダーになるのです。

512名もの狙撃手を訓練しつつ、自らも100名の敵兵を狙撃した恐怖の「マンマ」は、
栄誉勲章3級、2級を授与され、1945年2月には1級も推薦されますが、
彼女の乗ったトラックが修復中の橋を渡っている最中に崩壊してしまい・・。

Nina Petrova.jpg

栄誉勲章は下士官、女性兵士、空軍少尉に対し、3級から順に与えられるもので、
戦争の4年間で3級が100万人、2級が5万人、1級になると2672人だけ・・。
女性兵士の1級はニーナを含めて僅か4名であり、狙撃手になると彼女だけということです。
この勲章についても後半に2ページを割いて詳しく書かれていて、具体的な戦功基準も・・。

「個人で敵将校を捕虜にする」、「戦闘において、敵戦車を複数破壊する」
などというのは、ドイツ軍にもありそうなのでわかりますが、
「炎上する戦車に残って、任務を遂行する」というのは、やはりソ連らしいというか・・。

Order of Glory 栄誉勲章.jpg

4番手はアリヤ・モルダグロヴァ。
1925年、カザフスタン生まれのレニングラード育ちの彼女は、1942年になってもまだ17歳。
前線に出るために開校したての「中央女子狙撃訓練学校」に通い、
1943年7月、18歳となって北西戦線へと向かいます。
10月までに戦果、32人。怖いもの知らずのきゃしゃな女の子・・。

しかし翌年1月、ノヴォソコリニキの接近戦でドイツ軍将校と撃ち合い、重傷を負って死亡。
公式には78人を挙げたというアリヤには、レーニン勲章ソ連邦英雄が贈られたそうで、
カザフ人女性としては2人だけ、銅像も建てられ、切手にもなるという英雄です。

Aliya Moldagulova.jpg

第3章は「中央女子狙撃訓練学校」を紹介。
前半で「狙撃数の確定」方法は第3者による証言などが必要・・と書かれていましたが、
この章では戦後の卒業生のインタビューがあり、
負傷させただけなのか、射殺したのかの確認方法を訊ねられ、
「それはわかりません。相手が倒れたら、射殺したことになるんです」。

まぁ、コレを「盛ってる」と判断するかは難しい問題ですね。
本書でも重傷を負い、数日後に死亡した彼女たちのケースがあるように、
同じ射殺でも「即死」かどうかの違いもあり、もちろん撃たれても軽傷の可能性もあるわけです。

例えば戦車の撃破数にしても、行動不能になったら撃破とカウントしても、
その後、後方に牽引して復活するケースもありますし、
Uボート戦でも轟沈とカウントしたのに、実は中破だったり・・。
結局は撃った相手のその後まで見届けなければ、わからないことであって、
その戦闘において、行動不能=排除した・・という意味での戦果数なら問題ないでしょう。

Soviet snipe3.jpg

56ページから第4章「スナイパー・ライフル」で、代表的な「モシン・ナガン」について詳しく解説。
モシンさんと、ナガンさんによる開発競争も書かれ、「カラシニコフ自伝」を思い出しましたね。
写真も集団で敵機銃撃の体勢を披露しているルーニン大尉率いる狙撃手たち・・といった具合。

The infantry air defense, June 1943.jpg

またトカレフの「SVT-40」スナイパー・ライフルとの比較も興味深く、
なぜかドイツ軍の「カラビナー98K」も登場。
この ↓ パヴリチェンコが持っているのが「SVT-40」ですね。

Lyudmila Pavlichenko SVT-40- Soviet sniper.jpg

さて、ここで5人目の女性狙撃者が・・。彼女も有名なローザ・シャニーナです。
1924年生まれで、兄の2人はレニングラードとクリミアで命を落とし、
1943年、保育士だった彼女は「中央女子狙撃訓練学校」に入学。
夜間に動く標的を狙って射撃することが得意だったローザの戦果は75まで上るものの、
1945年1月、東プロイセン近郊で負傷した砲兵将校を守ろうとして胸に重傷を負って、
運ばれた病院で息を引き取るのです。

本来つけることの許されなかった彼女の日記が6ページほど掲載されていますが、
なかなか前線に出してもらえずに、男に生まれたなら思う存分、戦えたのに・・と、
グチも多い一方、若い兵士がやって来て、「キスをさせてください。
もう4年も女の子とキスをしていないんです」と実感のこもったお願いをされたり・・。
映画「戦火のナージャ」の、死ぬ前にオッパイが見たい・・を思い出しました。

Roza Shanina1.jpg

6番目はローザの友人だったイェヴドキヤ・クラスノボロヴァ、
7番目にクラヴティナ・カルギナが女性狙撃手として紹介。
特にクラヴティナちゃんは戦争勃発時にはまだ15歳で、
17歳で狙撃学校に条件付きで入学というエピソードを戦後のインタビューで・・。
初陣で、雪かきしているドイツ兵が丸見えなのに、ついに引金を引くことができなかった・・
という話や、コンビを組むマルーシャが狙撃され、自分の悲鳴が響き渡った話など、
写真どおりの、ごく普通の女の子のプチ戦記です。こういうの好きだなぁ。

Klavdia Kalugina, 1944.jpg

第3章で「相手が倒れたら、射殺したことになるんです」と話をしていたのも彼女でした。
手榴弾は2個を携帯し、1つはドイツ兵に、1つは自爆用・・。
「これは決まりです。捕虜にならないように使うんです。
狙撃手が捕まったら、容赦なしの扱いですからね」。
う~ん。「最強の狙撃手」だったか、ロシア兵の手に落ちたドイツの狙撃兵が
お尻にライフルを突っ込まれて串刺しになっていたなんて話が・・。

こんなロシアン・ジョークもありました。

ずっと森のはずれを気にしているドイツ兵。
「あそこに俺のことをじっと見ている可愛いロシア人の女の子がいるんだよ」
「だったらお前、なぜ隠れてるんだ?」
「あの子、スコープ越しに見つめてるんだよ・・」

Snipers Yevdokia, Russian Female.jpg

8番目はマリア・イヴシュキナ、
9番目は1924年生まれのニーナ・ロブコフスカヤ。
そしてベルリン占領に参加した第3突撃軍の女性狙撃手たちのエピソードと続き、
彼女たちは祖国へと戻っていくのでした。
後半は特に「戦争は女の顔をしていない」を彷彿とさせる展開でした。

Nina Lobkovskaya.jpg

こうして、戦場に向かった女性狙撃手はおよそ2000人。
そのうち生き残ったのは500人程度・・。
最後には、現在3万人の女性がいるロシア軍についても触れており、
さすがにスペツナズといった特殊部隊は女性の受け入れをしていないそうです。

Russian Female Soldiers.jpg

と、109ページながら充実した一冊でした。
知らなかった勲章や狙撃学校も勉強になりましたし、
写真は全て白黒ですが、ざっと150枚~200枚くらいでしょうか?
ロシア語サイトなどで見たことのあるのは30枚程度はありましたが、
ほとんどの場合はキャプションで名前まで明確にされています。
なので今まで見たことのある女性スナイパーの名前を本書でようやくわかった・・なんて。。
とにかく、「ドイツ軍婦人補助部隊」を読んだときのような新鮮さがありました。

またレニングラード包囲戦や、バグラチオン作戦についてもページを割いているので、
独ソ戦には詳しくない若い女性の方でも(独破戦線を読んでる若い女性はいないか・・)、
彼女たちの戦いざまが理解しやすく、オススメできます。



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