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クルスク大戦車戦 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヤヌツ・ピカルキヴィッツ著の「クルスク大戦車戦」を読破しました。

この「クルスク大戦車戦」というタイトルの本はいろいろあってヤヤコシイですが、
以前紹介したのは小説、そして今回は1989年に「朝日ソノラマ」から刊行された1冊です。
久しぶりに戦車モノを読みたくなったので、古書を「1円」で購入していた本書を選びましたが、
パウル・カレルの「焦土作戦」で始まって、さまざまな独ソ戦記やら、
クルスクの戦い」などの写真集やら読んできたものの、
実はこの「クルスク戦」全体を総括した本は今まで読んだことがありませんでした。
著者は珍しいことにポーランド人、翻訳はヴィトゲンシュタインの好きな加登川 幸太郎氏です。
359ページですが、安心して読めそうですね。

クルスク大戦車戦.jpg

本書はまず本文に入る前に「戦いの舞台」として、この中央ロシア高地のクルスクとは
如何なる場所なのか・・を詳しく解説するところから始まります。
地質や気候、天然資源などが説明されますが、ここではクルスクを中心として
北にオリョール、南にベルゴロドという町があることだけは知っておく必要があるでしょう。

続いて「主役を演じた将軍たち」として、独ソ将軍が写真つきで紹介。
最初に紹介されるのが第4航空軍司令官のデスロッホ・・というのが凄いですが、
クルーゲマンシュタインの両軍集団司令官と、モーデルホトケンプフといった
戦車部隊を指揮した将軍たち・・。

Hermann_Hoth.jpg

ソ連側では中央方面軍司令官のロコソフスキーが特に詳しく書かれていて、
赤軍大粛清」で彼に何が起こったのかまで・・。
1937年、「日本軍とポーランド秘密警察の工作員」の容疑で突然逮捕。
その後、強靭な体力のおかげで、NKVDの牢獄での3年間を生き延び、1940年に放免。
もっとも、拷問のために歯を何本か引き抜かれたそうです・・。

kursk_Рокоссовский.jpg

こうしてやっと「プロローグ」へ。1943年2月から3月にかけての戦局が語られて
スターリングラードに勝利した勢いで西進するソ連軍はクルスクを奪回。
ハリコフも取り返しますが、マンシュタインと第2SS装甲軍団のハウサーの逆襲に遭って・・
といった結果、戦線が落ち着いた時には、西に突き出した「クルスク突出部」が完成。
このバイエルン州ほどの大きさがあるというこの突出部を南北からの装甲部隊の攻撃によって
切断し、平らにすることによって予備も生み出そう・・というのが「ツィタデレ作戦」です。

OKH-Lagekarte_ZITADELLE.jpg

いよいよ「第1部 戦闘開始まで」が始まりますが、本書の展開はかなり変わっています。
1943年3月17日から、OKW(国防軍最高司令部)の戦争日誌、SS秘密機関の極秘報告などの
ドイツ側の資料、そして赤軍参謀総長宛ての報告書や
「プラウダ」などの新聞記事が時系列でひたすら掲載されます。
例えば4月24日付のヒトラーの「ツィタデレ作戦」命令書も、5ページに渡って掲載。
ドイツ軍の準備状況と、その情報から着々と防御準備に入るソ連軍の様子、
さらにはロイター電なども出てきて、5月に攻勢開始か・・?
しかし秘匿名ユーリエフことジューコフは「それはないでしょう」と、
同志イヴァノフ(スターリン)に報告します。

Koursk_Tigers.jpg

これが30ページ続いた後で「戦いの裏で」という本文が始まります。
この段階はいわゆる「情報合戦」であり、ドイツ側はソ連側の暗号を解読し、
ドイツの暗号機「エニグマ」を解読していた英国は、その「ウルトラ」情報をソ連参謀本部へ流します。

150㌔に及ぶ縦深の対戦車防御。それに対し、ティーガーに加え、
新型戦車パンターフェルディナンドで対抗しようとするヒトラー・・。
基本的には双方の情報はお互いの情報部へ筒抜けとなっているものの、
その情報を信じるかどうかは、ヒトラーとスターリンそれぞれにかかっています。

battle_kursk_0002.jpg

そして優柔不断となっては延期を繰り返すヒトラーに、各々の意見を持った将軍たちの対立の様子。
ちょっと整理すると、「やるならすぐやれ派」が南方軍集団司令官マンシュタイン、
中央軍集団司令官クルーゲ、陸軍参謀総長ツァイツラー、空軍参謀長イェショネク
「頼むからやめてくれ派」が装甲兵総監グデーリアン、OKW作戦部長ヨードル
軍需相シュペーアといった感じです。

「この作戦は政治的に必要なのだ」とするヒトラーに、
「クルスクなんて場所を世界中の誰が知っているというんですか?」
時間はソ連の防御陣地をさらに強固なものとしますが、ヒトラーは戦車を2倍にすれば・・。
また第9軍司令官のモーデルが上官であるクルーゲの頭越しにヒトラーへ
「突破は困難である」と報告して、関係がギクシャクしたり・・。

Guderian und model.jpg

7月2日、作戦は成功しなくとも、ソ連の機甲部隊にダメージを与えることに意義を見出している
マンシュタインはルーマニアのアントネスクを訪れ、セヴァストポリ占領記念を祝う式典に出席。
しかし、このような行動は欺瞞工作であって、すでに「ツィタデレ作戦」の決行は、
3日後の7月5日に決定しているのでした。

von Manstein Antonescu.jpg

「第2部 ドイツ軍攻撃開始」。この章でもまず、OKWの戦争日誌などが紹介されて
始まった「ツィタデレ作戦」の戦闘の推移が語られます。
印象的なのはフェルキッシャー・ベオバハターに掲載された、従軍記者の記事ですね。
乗っている戦車に直撃弾を浴びて、死にもの狂いで飛び出したり・・。

Kursk-1943.jpg

7月7日のソ連情報局の発表では、「本日、ドイツ軍は戦車520両、飛行機229機を失い、
この3日間の戦闘で失ったのは戦車1539両、飛行機649機」ということです。
これじゃドイツ軍は間もなく全滅ですね。。

オリョールを起点とした北の中央軍集団はモーデルの第9軍が攻撃します。
装甲6個師団、歩兵15個師団、装甲擲弾兵1個師団という、やや歩兵中心の編成です。
しかし新型の怪物フェルディナントも受領し、マントイフェル集団なる強そうな装甲部隊も・・。

Ferdinand Sd.Kfz. 184 Panzerjäger Tiger.jpg

ベロゴルドからクルスクを目指す南方軍集団はホトの第4装甲軍が主役です。
ティーガー戦車などを揃えたライプシュタンダルテダス・ライヒなどの
精鋭武装SS師団から成る、ハウサーSS大将の第2SS装甲軍団に、
フォン・クノーベルスドルフ大将の第48装甲軍団。
さらにはエリート師団グロースドイッチュランドの新型戦車パンターを指揮する
シュトラハヴィッツ大佐に、あの強面カール・デッカー将軍の「パンター旅団デッカー」も・・。
そしてケンプフ装甲集団も同時に攻撃を仕掛けます。

karl decker_General der Panzertruppe.jpg

しかし歩兵師団の少ない南方軍集団は敵陣にはまり込み、いきなり苦戦を強いられ、
一方の中央軍集団も、ロコソフスキーの機転による地中に埋められた戦車によって、
4日間も攻撃を食い止められてしまいます。
普通、このようなクルスク戦は、北部戦線と南部戦線に分けて書かれているものですが、
本書は入り乱れて出てきます。また、独ソ双方の状況が師団単位で描かれますので、
ある程度、慣れている人じゃないと、結構シンドイ展開ですねぇ。

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ソ連戦車を撃破し、徐々に突破北進を繰り返し40㌔前進したホトの第4装甲軍。
第2SS装甲軍団の側面に対して、第2親衛戦車軍団を差し向けたバトゥーチン
この危機を救ったのは「空飛ぶ対戦車砲」、30㎜砲を備えたHs-129B2です。
マイヤー空軍大尉が呼び寄せた16機によって、集結していたソ連戦車50両を撃破します。

Hs 129.jpg

ロコソフスキーは自分が第9軍を相手に、弱い地域に兵力を集中し、うまく防御したことを
自画自賛しながら、南方軍集団に対するヴォロネジ方面軍司令官のバトゥーチンは
兵力を防御線の全部にばらまいた・・として、
ドイツ南方軍集団が突破に成功したのは、その戦力差ではないと語ります。

PzKpfw III v kurském oblouku.jpg

やがて頑強なソ連軍の抵抗に遭い、最短経路を棄てて別の経路でクルスクを目指すこととしたホト。
彼が選んだのは「プロホロフカ」経由です。
こうして、いよいよ史上最大の戦車戦と云われる「プロホロフカの大戦車戦」へと続いていきますが、
まぁ、これはいろいろ書かれていますから、今回は・・。

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余談ですが、数年前に「サドン・ストライク」というPCゲームをやっていたときに
「プロホロフカの戦い」というミッションが大好きだったことを思い出しながら読んでました。
Ⅳ号戦車やティーガーで戦うわけですが、うじゃうじゃ出てくるT-34などのソ連戦車相手に
敗北を喫して、涙したこともしばしば・・。
思えばそんなことが、いま「独破戦線」をやっているキッカケのひとつかも知れません。

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「第3部 両軍激突ののちに」では
南部の激戦の陰に隠れたモーデルの第9軍は、すでに攻勢は頓挫し、
逆にロコソフスキーの逆襲を喰らって、作戦開始したオリョールの防御戦闘に移行します。
西側連合軍もシチリアに上陸し、ヒトラーは作戦中止を決定。
南方軍集団の武装SS師団を抽出してイタリアへ派遣するように指示し、
「撤退は許さん!」で有名な総統が、早く撤退するよう各司令官に命令します。

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しかし未だ互角の戦いを繰り広げているマンシュタインの手元には、
まだ予備の切り札としてヴィーキング師団も。。
そんななか、マンシュタイン指揮のもとにスターリングラード救出部隊の先方として活躍した
第6装甲師団長フォン・ヒューナースドルフ少将が狙撃兵に頭部を撃たれて戦死・・。
本書は登場する各師団のあとにカッコ書きで師団長の名も書かれているので、
第11装甲師団長のヘルマン・バルクとか出てくると、「おっ」といちいち気になってしまいます。。

Manstein with Tigers.jpg

最後の「第4部 ソ連軍の逆襲」では、遂にオリョールまで奪還されて、大規模な後退をする
第9軍の様子・・。それでもこの防御しながらの撤退を整然と行うモーデルの手腕は、
ここに至って真骨頂と呼べるものです。
南部も予備であったコーネフのステップ方面軍がベロゴルドに突入し、
8月5日、これをもって「クルスク会戦」は終了します。

battle_kursk_model.jpg

久しぶりにクルスク戦モノ読みましたので、なかなか面白かったです。
特に、中盤までの準備状況・・っていうのは、個人的に焦らされている感じもあって
嫌いじゃないんですね。
大脱走」とか、「荒野の七人」とか、基本は「準備」がメインですから、
そういう映画が好きな人には、コレを理解してもらえるかも・・。
北部戦線の大判写真集である「続・クルスクの戦い」や第二次世界大戦ブックスの
同じタイトル、「クルスク大戦車戦」も今度、読んでみるつもりです。
それから独ソ戦車戦シリーズの「クルスク航空戦」もかなり気になってきました。。











ヒトラー時代のデザイン [切手/ポスター]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

柘植 久慶 著の「ヒトラー時代のデザイン」を読破しました。

2000年に発刊された文庫で253ページの本書。
すでに絶版なのもあって、内容が不明ながらも、タイトルと表紙に惹かれて
懲りもせずに古書を購入してしまいました。
著者はフランス外人部隊にいた過去を持つ、自分も若い頃から知っている有名な方で、
アクション小説やグリーンベレー などのノンフィクション、「ロンメル将軍―砂漠の狐」など、
いろいろと書かれていますが、手を出すのは今回がはじめてです。

まず、本書を手にとってパラパラめくってみると、なんと驚いたことにオールカラー・・。
文庫サイズながらもほとんど1ページに1、2枚のカラーの絵葉書などが掲載されており、
今回は「大当たり」の予感・・。
どうも、著者はかなり年季の入った軍事書簡やコインなどのコレクターのようで、
彼の秘蔵の品々を簡単な解説で紹介しているものでした。

ヒトラー時代のデザイン.jpg

ちなみに表紙の主役のティーガー戦車は1944年の占領地フランスで発売されたカレンダーで、
左下のシュトゥーカも同様、その隣は1936年ベルリン・オリンピックの切手、
右下はその舞台オリンピア・シュタディオンと
「前畑ガンバレ!」専用の競泳プールが写った絵葉書です。

Berghof hitler.jpg

第1章は「アドルフ・ヒトラー」と題して、カラーの肖像画、ポスターに絵葉書を紹介します。
ヴィトゲンシュタインが見たことのあるポスターも出てきますが、
本書で紹介されるものはほとんどが絵葉書で、有名なポスターの図版が
当時そのまま絵葉書となっていたことが理解できます。
また、絵葉書の発行元はエヴァ・ブラウンがバイト?していた「ホフマン写真館」であり、
ヒトラーの写真家、ハインリヒ・ホフマンは儲かってたんだろうなぁ・・と想像できますね。

Hitler,H_Hoffmann&H_Goering.jpg

そして白黒の方が歴史的に重要な場面が多い・・と書かれているように
オーストリア併合後(アンシュルス)、両親の墓を訪れるヒトラー・・というものは初めて見ました。
こないだ、このシーンを読んだばかりなので、特に印象に残る一枚です。
さらに山荘ベルクホーフのカラーの美しい絵葉書が数点。
「ヒトラーと少女」というタイトルの生誕51周年記念切手の原画は、
「あ~、あの切手ね・・」と、知っている構図なのでちょっと比較・・。

hitler stamp.jpg

第2章は「ベルリン・オリンピック」です。
以前に紹介した大会ポスター数点に加え、大会関係者に記念品として配られた
「功労メダル」も原寸写真で出てきました。
他にもバッジに入場券など大会グッズ満載で
特に切手シートにはヒトラーとゲッベルスの直筆サインが入ったお宝も・・。

Olympic 1936 medal.jpg

続く第3章「ヒトラーの帝国」では、まずニュルンベルク党大会の絵葉書(ポスター)からです。
しかも1933年から1939年まで連続で・・。同じ年でも複数のデザインがあったんですね。
なお、1939年は9月2日に開催予定でしたが、その前日にポーランド侵攻・・。
未発行となった幻の絵葉書のようです。

reichsparteitag 1934.jpg

SASSヒトラー・ユーゲントに以前紹介したこともある警察の絵葉書(ポスター)と続き、
ここでまたマニアックは珍品が登場・・。
ブッヘンヴァルト収容所で警備に当たるSS隊員用の食堂限定通用金券(3RM)」です。

個人的に一番ビックリしたのがコインです。
「授権法成立1周年記念5マルク銀貨」と「ヒトラー首相就任記念」の銀のメダル。
後者はほとんど現存していないそうで、ヒトラーの顔の入ったコインというのは
初めて知りました。

hitler_medal_1933.jpg

まだまだドイツ少女団(BdM)のシリーズと国防軍兵士が勇気と戦友愛を見せる絵葉書、
兵科ごとの軍旗を描いた21枚の完全揃いが1ページづつ紹介され、
40年のコレクション歴を誇る著者でさえ「この1組以外も目にしたことがない」とちょっと自慢?

勲章と徽章もカラー写真でいくつか紹介。
鉄十字章から一般突撃章、戦傷章Uボート章クリミア・シールドもすべて原寸。
他に母親十字章も出てきますが、「ナチ党10年勤続章」というのは初めてですねぇ。

nsdap-long-service-medal-award-stormtrooper.jpg

当時、最高の肖像画家であったというクンツ・マイヤー=ヴァルデックが描く、
"戦艦ロイヤル・オーク撃沈男"プリーンや、"砂漠の狐"ロンメル、"戦車親父"グデーリアンなどの
ヒーロー絵葉書もプロマイド代わりで国民に大変人気があったようです。

Willrich Rommel Portrait Propaganda Card.jpg

第4章は「ヒトラーの宣伝」。
外国人志願兵ではいきなりスペイン義勇兵(青師団)の12枚セットの絵葉書が・・。
白黒の写真の絵葉書ですが、これはレアだな~。。
1941年の「青師団記念メダル」まで登場。素晴らしい・・。

division-azul_MEDALLA.jpg

表紙のティーガー戦車のカレンダーは週ごとに切り離して使うタイプで、
52週間分繋がっているという貴重品です。
FW-19088㎜高射砲列車砲突撃砲、スキーを履いた山岳兵にUボートまで
週ごとに実にバラエティに富んだカラー写真です。

第5章は「証明書・郵便物・切手」で、軍隊手帳では1936年の鷲の翼が広がっていないタイプと
1939年発行の鷲の翼が広がっているタイプの両方を紹介します。
こういうのを見ると「大脱走」の偽造シーンを思い出しますね。。
ヒムラーの署名が入ったSS隊員の身分証明書も、終戦後にコレを持っていると
戦犯に問われるため、ほとんどが廃棄された・・ということです。

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占領地で発行された切手も面白いですね。
特にドイツ・アフリカ軍団のシンボルを描いた専用切手・・。珍しいなぁ。
じ~・・・っと見ていると、ラーメンが食べたくなってきます。。

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最後の第6章は「謀略の小道具」として、ベルンハルト作戦の偽札ニセ切手を紹介。
ここでも連合軍側に撒いた「宣伝ビラ」が楽しめました。
アンツォ上陸モンテ・カッシーノ攻防戦でのものですね。
そして、日独伊の枢軸3国が一緒に戦う、イタリアの絵葉書で終了です。

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事実上、文庫のカラー写真集ですから、ガン見しながらも1時間半で独破してしまいました。
古書を100円で購入しましたので、まったく文句はありません。
それどころかシリーズで続編が出たとしても定価の790円で買ってしまいますね。
このような第三帝国のデザインを、やれプロパガンダだのと評価する向きも多いですが、
ナチス、ヒトラー批判を前提とすることなく、純粋にデザインを歴史とともに振り返る・・
という本書のような姿勢があっても良いんじゃないでしょうか?
「コレは初めて見た・・」というのが多かったように、コレクター目線で語られた本書は、
自分のようなコレクター魂を持った人ならば、かなり楽しめると思います。



WW2ドイツの特殊作戦 -恐るべき無法と無謀の集大成- [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

広田 厚司 著の「WW2ドイツの特殊作戦」を読破しました。

8月に読破した「ヒトラーのスパイたち」で登場した「ブランデンブルク隊」の話・・。
「もっと細かくして1冊の本にして欲しかったくらいです。」なんて書いてましたが、
その1ヶ月前に発刊されていたのが本書です。
たまたまamazonで「怒涛のドイツ陸軍の進攻を容易に導いたブランデンブルグ部隊。
種々の専門技能、外国語にも精通し、優れた体格を有する恐るべき戦争のプロたち」
と紹介された293ページ本書を発見して、お昼には本屋さんで購入してしまいました。

WWⅡドイツの特殊作戦.jpg

まず序章では国防軍防諜部(アプヴェーア)のカナリス提督と、その彼によって
1939年に編成されたフォン・ヒッペル大佐のブランデンブルク部隊の
入隊基準や訓練などが解説されます。
ヒトラーの政策により、外国に住むドイツ人が母国へ戻るよう奨励された結果、
多種技能を有して外国語を操る数千人の人びとが帰国したそうです。

Theodor von Hippel.jpg

そして第1章は「ヒンデンブルク作戦」。。
初めて聞いた作戦名ですが、読み進めるとポーランド侵攻直前にハイドリヒ
舎弟のナウヨックスが仕掛けた、国境そばのラジオ放送局を襲撃するというヤツですね。
これにブランデンブルク隊がどう絡んでいたのか・・というと特に絡んでいません・・。
実際のポーランド戦が始まってから、軍本隊よりも先にポーランドへ入り、
石炭と鉱山施設をポーランド側の破壊行為から守る任務に就いたそうです。

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第2章は「フェンロー作戦」。。
これってまさかシェレンベルクのヤツ??と思いましたが、
1940年の西方電撃戦におけるムーズ河に架かるヘネプ鉄道橋を確保するというミッションでした。
本書は文庫ながら150枚程度の写真が掲載されていて、
この任務を指揮したヴァルター中尉も写真つき・・。結構、良い男です。
また、ココでは英国侵攻の「あざらし作戦」の話が出てきますが、なんか違うだろ・・?
「ゼーレーヴェ作戦」は「あしか」ですよね。。
そういえば著者は「武装親衛隊 -ドイツ軍の異色兵力を徹底研究-」の方でした。
細かいところはちょっと怪しい気が・・。

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次の章はベルギーの「エーベン・エメール要塞」攻略です。
これはコッホ大尉率いる空軍のグライダーと降下猟兵の活躍で
以前に読んだ「ストーミング・イーグルス」のような展開です。
これにブランデンブルク隊がどう絡んでいたのか・・というとやっぱり絡んでいません・・。
この時点で気づきましたが、本書はブランデンブルク隊に特化したものではないんですね。

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続く「バルバロッサ作戦」ではグデーリアン装甲集団の猪突猛進を助けるべく、
赤軍兵に扮した橋梁奇襲作戦の実行です。
進軍するドイツ軍の流れに巻き込まれれば、攻撃を受けてしまう可能性もあるこの特殊任務。
橋頭堡の維持は15分の予定が、実際は数時間にもおよび
指揮を取るクラーク中尉以下、多数の戦死者を出てしまいます。
これはブランデンブルク隊の真骨頂ですね。

Brandenburg commandos in Russian uniform, 1941.jpg

北アフリカでは300名のブランデンブルク隊が「アフリカ中隊」として送られ、
英軍ばりの「長距離砂漠挺身隊」としても活動。
連合軍が上陸してきたチュニジアでも、ラムケ降下猟兵大隊の残存兵と合流し、
最終的には脱出する者、捕虜になる者・・。

Cufftitle Panzer-Grenadier-Division Brandenburg.jpg

中盤の第6章は「スコルツェニーSS少佐の登場」です。
有名な「ムッソリーニ救出作戦」が紹介され、「走り幅跳び作戦」なるものの説明が・・。
これはテヘランに集う連合軍の3巨頭をまとめて暗殺してしまおうというものだそうで、
RSHA長官カルテンブルンナーが総責任者となり、スコルツェニーが実行指揮官に任命。
ヒトラーにも承認された計画だそうですが、ソ連側にバレて、やむなく中止・・。ふ~ん。。

Tehran. 1943.jpg

SS降下猟兵第500大隊が活躍した、バルカンでのパルチザンの首領「チトー急襲作戦」。
これには第7SS義勇山岳師団プリンツ・オイゲンとブランデンブルク隊も参加していました。
直前に降伏したイタリア軍は重火器を含めた武器をパルチザンに引き渡してしまい、
戦力充実した相手に大損害を被り、チトーにも逃げられて軍服をゲットしただけに留まります。
この章はなかなか良く書かれていました。

Alcuni paracadutisti dell' SS Fallschirmjäger Battaillon 500 con la giacca del maresciallo Tito.jpg

そして「グライフ作戦」。バルジの戦いにおける米軍に変装した後方攪乱で有名です。
このスコルツェニーの「第150戦車旅団」の構成が詳しく書かれていて
空軍降下猟兵大隊2個、SS特殊部隊1個、SS降下猟兵第500大隊の残存部隊(第600に改名)、
陸軍からも装甲部隊、擲弾兵部隊、対戦車砲に迫撃砲などが中隊単位で参加しています。
また、並行して実施されたフォン・デア・ハイデ大佐の降下作戦も解説されていますが、
このあたりはトーランドの「バルジ大作戦」のダイジェストのような感じです。
パンツァーファウスト(戦車鉄拳)とか、パンツァーシュレック(戦車驚愕)、というカッコ書きが
けっこう笑えました。。戦車驚愕って・・?

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後半は海空の特殊部隊が続きます。
「K-特殊部隊(K戦隊)」は特殊潜航艇と自爆ボートが売りの海軍特殊部隊です。
一人乗りの「ネガー」や「ビーバー」、二人乗りの「ゼーフント」が登場し、
果敢な、そして物悲しい突撃を繰り返します。そういえばゼーフントが「あざらし」ですね。

UBoot-Neger.jpg

イタリア海軍が実績を挙げていたフロッグマンの訓練もドイツは始めます。
頑健で知識と技量、冷静な判断力を兼ね備えた一握りのスペシャリストだけが
選ばれるフロッグマンは、酸素ボンベで水中で自由に活動するエリートです。
そしてここに首を突っ込むのが、特殊部隊の主役、スコルツェニー。。
SSの要員を無理やり参加させているようで、本書には書かれていませんが、
彼らがレマーゲン鉄橋爆破任務 ⇒ 失敗・・だったんでしょうね。

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空軍は以前に紹介した「ヒトラーの特攻隊」こと、「エルベ特別攻撃隊」と
「第200爆撃航空団」が紹介されます。
バウムバッハ大佐が運営する第200爆撃航空団が出てくるものは初めて読みましたので
非常に興味深かったですね。
情報員を敵地に潜入させることを目的としたこの特殊部隊は、その任務のため、
不時着したB-17爆撃機などの英米機を修理/復元して使用していたそうです。
さらに彼らが最後の任務として敗戦の混乱のなか、ナチ高官を友好国へ逃亡させた・・。

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最後は「人狼部隊」です。
ヒトラー・ユーゲント指導者アクスマンとSSのプリュッツマン、スコルツェニーに
カルテンブルンナーによって編成されたということですが、
元人狼メンバーの回想などが語られます。
特にアーヘン市長の暗殺が彼らの戦果であり、わりと顔の知られたイルゼ・ヒルシュという名の
少女団(BdM)の女の子がこの暗殺事件に関わっていたというのは初めて知った話です。

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紹介文に書かれているようなブランデンブルク隊については半分以下・・という本書でしたが
このように、SS、海軍、空軍と幅広くドイツの特殊部隊を時系列で整理した一冊で
戦局の推移によって、特殊部隊の必要性がどのように変化していったのかもわかる反面、
ブランデンブルク隊について深く知りたかった自分にとっては、物足りなくもありました。
また、最後の「第200爆撃航空団」と「人狼部隊」の話については、どこまでホントか、
疑問に思うのも事実ですね。



泥まみれの虎 -宮崎駿の妄想ノート- [戦争まんが]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

宮崎 駿 著の「泥まみれの虎」を遂に読破しました。

オットー・カリウスの有名な戦記「ティーガー戦車隊」を読んだのが去年の3月。
その時にも、本書のおすすめコメントを戴いていましたが、
シュトラハヴィッツ機甲戦闘団―“泥まみれの虎”の戦場写真集」を先に読んでしまったりして、
結局、本書に辿りつくまでにだいぶ時間がかかってしまいました。
ジャンルとしては、「独破戦線」初の「まんが」というカテゴリーになりますが、
この大判で87ページの一冊は、まんがは2/3くらいで、
宮崎駿氏とカリウスのインタビューなどもあり、なかなか充実したものでした。

泥まみれの虎.jpg

まずは、ヴィトゲンシュタインとまんが、それからヴィトゲンシュタインと宮崎駿アニメの関係が
如何なるものか・・を述べさせてください。
本ばっかり読んでるヴィトゲンシュタインはホント久しぶりにまんがを読みましたが、
子供の頃はまんが少年で、毎週欠かさず、少年ジャンプにマガジン、サンデー、
そしてチャンピオンの4冊を買っていました。
お気に入りは単行本も全巻買って、特に何度も読み直したのは「男組」・・。
流全次郎vs神竜剛次の20数巻も延々と続く死闘です。。好きなキャラは高柳秀次郎でした。
それから「我ら九人の甲子園」も良かったなぁ・・。当時は高校生が卒業して
メジャーリーグ行くなんて結末は、まさにまんがの世界でしたからね。
ところが18歳のときに一気にやめてしまい、それ以来、ほとんど読まなくなりました。

男組.jpg

そして宮崎駿アニメについてですが、最初に観たのが「ルパン三世 カリオストロの城」。
たぶん小学校6年生で、あくまでTVのルパンが好きだったのでロードショーに行きましたが、
あまりの面白さに、そのまま続けて観て、それでも飽き足らずに
翌週、友達みんなを誘ってもう一度観に行った・・という、今でも大好きな映画です。

そして数年後にも「風の谷のナウシカ」を観に行ったかというと、そうではなく、
もう年齢的にも男としてもアニメを観に行く気が起きず、
また予告編で観たナウシカの顔と声が「クラリスじゃん!」というのが、今思うと大きかったですね。
クラリスに軽く恋心を抱いていたヴィトゲンシュタインにとっては、
あんまり彼女の戦う姿を観たくなかったんでしょう。。
ということで、いまだに「ナウシカ」をTVでも観ていないというヴィトゲンシュタインですが、
いま、調べてみると「魔女の宅急便」だけは、なぜかTVで観ていましたねぇ。
別に宮崎アニメが嫌いって訳じゃあないんです。いつか子供が出来たら、いっしょに全部、観ます。。

カリオストロの城.jpg

こういった事情を踏まえて、いざ本文・・というか、本まんが?ですが(なんて言うんでしょう??)、
カリウスの「ティーガー戦車隊」からエストニアのナルヴァの戦いの部分を抜粋したストーリーですが、
オールカラーで凄く細かく書かれています。
主役のカリウスは何故か「ブタ」。。そういえば「紅の豚」というのもありましたねぇ。
この「泥まみれの虎」は連載まんがだったそうで、本書はそれをまとめたものなんですが、
途中でタイトルが「「泥だらけの虎」・・になってて、「なんか違うだろ」と突っ込んでたり、
連載の締め切りに追われていたのか名前が「宮崎オソオ」や「宮崎グズオ」になってたり、
細かいところも楽しめます。

泥まみれの虎1.JPG

カリウスとともに戦う、もう一両のティーガーの戦車長ケルシャーも登場し、
役に立たない中隊長のフォン・シラーもボロクソに書かれていました。
あ~、確かにそんな中隊長いましたね~。

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風呂にも入らず、ひたすら「虎」の戦車内で待機するカリウスたちクルー。
車内は汚れ、シラミが発生・・。おしっこも外に出ないで88mmの空薬莢にする話・・。
対するソ連軍の行動パターンも面白おかしく解説していて、勉強にもなりました。

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この「泥まみれの虎」が半分程度で終わると、ナルヴァの戦いについての解説ページになりますが、
これを書いているのが、あの「ラスト・オブ・カンプフグルッペ」などの著者である高橋慶史氏でした。
そして宮崎氏の現地旅行記とカリウスを尋ねてインタビュー、
エストニアとナルヴァの歴史紹介などがカラー写真を掲載して紹介されます。
まんが以外の部分も物凄く充実していて、1ページたりとも気が抜けません。。

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バルト3国の一番上の国であるエストニアですが、
個人的にはマイナーな国だと、その国の有名人に「誰がいたっけ・・?」といつも考えます。
そうすると、知らない国でもなんとなく親近感が沸いたりするからですが、
ヴィトゲンシュタインの好きなサッカー選手を思い出してみましたが
10年位前にスペインのセルタで活躍していたカルピンがエストニア出身で、
しかもナルヴァ生まれだったんですね。
ソ連崩壊後にエストニアではなく、ロシア代表を選んだそうですが、好きな選手でした。

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本書はもうひとつ、「ハンスの帰還」というまんがも収められていて、
こちらは「泥まみれの虎」の先に書いた「戦車モノ」だそうです。
終戦時にⅣ号戦車でソ連占領地から西へ逃げ延びる・・というフィクションで、
これもなかなか楽しめました。
だいたい宮崎氏がまんがを連載していたことも実は始めて知りました。
アニメの監督さんだと思っていましたので・・・。
そしてこの「ハンスの帰還」の後にも、高橋慶史氏による最終戦でのお話が掲載・・。

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宮崎氏が「ティーガー戦車隊」以外に好きな戦記(回想録)が「鉄の棺」と「空対空爆撃戦隊」で、
ルーデルの「急降下爆撃」はあまり好きじゃないというのもなるほどね・・という感じでした。
これはルーデルは攻勢の時期がメインで、彼が嫌なことにはほとんど触れていないというのが
ご不満のようで、それ以外の3冊は苦境に立たされた戦争後半がメインですから、
苦しい中での生活や、有利な相手に技術的に立ち向かうことなどが興味深いようです。

Otto Carius.jpg

いや~、実に久しぶりのまんが・・。楽しかったですね。
あまりに久しぶりなので最初は左に行くのか、下に行くのか、一瞬、悩んだりして・・。
4時間ほどかけて、コマの一字一句ジックリ読みましたが、定価の2600円は妥当と思いました。
第二弾として、先日、本屋でチラ見したフランスのまんが「ル・グラン・デューク」も
近いうちに読んでみようと思います。









アドルフ・ヒトラー[4] -1941-1945 奈落の底へ- [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジョン・トーランド著の「アドルフ・ヒトラー[4]」を読破しました。

この最終巻は対ソ戦における軍事的な話ではなく、ユダヤ人絶滅政策・・、
「最終的解決」を任され、ヴァンゼー会議で宣言するラインハルト・ハイドリヒと、
銃殺に代わる人道的で効率的な大量殺戮方法を模索するSS全国指導者ヒムラー
その答えである「ガス室」を設置し、実施するアウシュヴィッツ所長のヘース・・。
ヒトラーはこの大量殺戮の実用性を英米の歴史から学び、南アフリカのボーア人捕虜収容所と
大西部のインディアン収容所で行われた「飢えと対等でない戦いによる絶滅」という
能率的なやり方を賞賛します。

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本書ではこの時点で「ユダヤ人絶滅政策はヒトラーが指示したもの」という解釈です。
逆の解釈ではアーヴィングの「ヒトラーの戦争」がありましたが、
これは文書が残っていない・・ということで分かれているところですね。

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ゲッベルスの部下であるハンス・フリッチェはアインザッツグルッペンの噂を聞き、
ハイドリヒに単刀直入に尋ねます。
「ウクライナのSSは大量殺戮のためにあそこにいるのですか?」
憮然として否定するハイドリヒ。。。翌日、調査結果をフリッチェに伝えます。
「総統の知らない間に大量殺戮を行った犯人はガウライターのコッホである」
いや~、ドロドロ感がハンパじゃないですねぇ。

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1942年の夏季攻勢「青作戦」。
攻撃の続行を渋るフォン・ボックを解任し、カフカススターリングラード
同時に大規模な攻撃を仕掛けようとするヒトラー。
この兵力の分散に公然と反対する参謀総長ハルダーですが、ヒトラーは副官に語ります。
「これ以上ハルダーの言葉に耳を傾けていたら、私は平和主義者になってしまう」

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そして「二兎追うものは・・」の格言どおり、カフカスから撤退し、スターリングラードも逆包囲・・。
責任を取らされたハルダーに代わってツァイツラーが登場し、
空からの補給を安請け合いし、総統の信頼を取り戻そうとするゲーリング
包囲された第6軍司令官のパウルスを降伏させないように元帥へ昇進させ、
救出チームマンシュタインにも責任を肩代わりさせるヒトラー。
このあたりはスッカリお馴染みですが、この包囲陣のなかにはヒトラーの最愛の女性ゲリの兄弟、
レオ・ラウバルをおり、パウルスはヒトラーに「彼を飛行機で護送すべきかどうか?」尋ねますが
ヒトラーの答えはノー・・。「彼は一兵士として戦友たちのそばに留まるべきである」

This man is gulping his hot drink.jpg

1943年の4月にはヒトラーはベルヒテスガーデンへ久しぶりの休暇に向かいます。
エヴァの2匹のスコッチ・テリアを「手のひらの掃除係」とからかうと、
エヴァもヒトラーのアルザス種の愛犬ブロンディを「とんま」と罵ります。
また「スカートを履いたものならなんでも追いまわす」と称される女癖の最悪なボルマン
エヴァが嫌っていた話も出てきますが、もちろん彼女だけは言い寄られることはありません。。

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夏には西側連合軍によるドイツ本土への無差別爆撃が激しさを増し、
何度も空襲を受けたハンブルクでは7万人が死亡。
「このようなテロ爆撃はユダヤ人が考えたものだ!」と英軍のハリス司令官らを
「ユダヤ人かユダヤ人の混血である」と怒り心頭・・。
ハンブルクに視察に訪れたゲッベルスはその廃墟を見て、真っ青になって震え上がり、
最も責任のあるゲーリングは戦闘機隊総監ガーランドらの前で、完全に取り乱します。

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途中、クルト・ゲルシュタインも登場してきましたが、本書で虐殺行為を阻止するために
最も力を尽くした人物として、コンラート・モルゲンという34歳の弁護士が出てきます。
SDの経済犯罪部へ移された彼はブッヘンヴァルト強制収容所の所長、カール・コッホ
私腹を肥やしていることを追及します。
コッホの積年の腐敗と関係者の殺害という証拠を掴んだ彼ですが、上司たちは一様に青ざめ
暗殺されたハイドリヒの後任、カルテンブルンナーですら取り合いません。
たらい回しにされた挙句、なんとかヒムラーの目に留まった報告書。
矛盾に満ちた潔癖症のヒムラーは、このモルゲンにコッホに関する汚職事件捜査の
「全権」を与え、逮捕、裁判と進んでいきます。

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その一方で、各々の収容所では医学実験のために無数の人びとが死んでいきます。
雪や氷水のなかに裸で放置され、ある者は空軍の高々度実験で、
またある者はガスや有毒弾のモルモットとして死に、ラーヴェンスブリュックの婦人たちは
壊疽の実験に使われ、ダッハウでは人間が塩水だけでどれだけ生きられるか・・。

そして1944年のノルマンディ。西方軍司令官ルントシュテットとB軍集団司令官のロンメル
ヒトラーに面会し、戦いは絶望的であると進言します。
しかしヒトラーは「新しいロケット爆弾が和平を求めさせるだろう」と取り合いません。
「ならば英国南部の諸港の補強基地へ向けて発射するように」という要請も、
「政治的目標に集中されなければならない」と拒否・・。
このような状況で7月20日、シュタウフェンベルクの仕掛けた爆弾が炸裂します。

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このヒトラー暗殺未遂事件も詳しく書かれていますが、本書では
あの「ヨーロッパで最も危険な男」スコルツェニーの活躍が光ります。
たまたまベルリンで反乱の報を受けた彼は、馴染みのシュトゥーデント将軍の家を訪れますが、
婦人が傍らで縫い物をしている平和な光景・・。スコルツェニーの話も信用してくれません。
上司のシェレンベルクの命令でベントラー街へと向かい、レーマー少佐
すでにシュタウフェンベルクらを処刑したフロムらと出会いますが、現場は一様に混乱状態です。
残る陸軍の参謀将校たちとSSのスコルツェニー・・誰が指揮を取ってこの場を収めるのか・・?

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この爆弾による負傷よりも、この事件への関与者が多かったことがヒトラーを傷つけます。
ここからは従医モレルによる薬の投与によって、徐々に病んでいくヒトラーの様子・・。
彼は癌で死んだ母親を忘れず、自分も遺伝により若くして癌で死ぬ・・と考えて生き急ぎ、
それが早まった東部への戦争を引き起こしてしまう要因でもあるわけですが、
変な話、ヴィトゲンシュタインも両親が死んだのと近い歳になってきて、
実は50歳や60歳の自分なんて考えたことがなかったですね。。
なので、なんとなく、この1940年~のヒトラーの焦り・・というのは理解できるような・・。

起死回生の「アルデンヌ攻勢」の主役は、第6SS装甲軍を率いるゼップ・ディートリッヒ
パイパー戦闘団ではなく、第5装甲軍を率いるマントイフェルです。
これは彼からインタビューしていることが大きいんでしょうね。

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1945年2月、ドレスデンが壊滅するとゲッベルスは声を上げて泣き出し、ゲーリングを非難します。
「あの寄生虫めは、怠慢と利己心ゆえに、いかに大きな罪を背負い込んだことか!」
そしてヒトラーに英米の捕虜パイロットを報復として処刑することを提案しますが、
ヒトラーは「反対」・・。翌月にはレマゲン鉄橋が爆破されずに米軍の手に落ちると、
「裏切りだ!」として、責任者は厳罰に処せられます。
しかし、この頃から時折見せる、放心状態も多くなってきます。

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ベルリンの地下壕での、いわゆる「ヒトラー最期の日々」は、
彼の落差の激しい精神状態が本書では印象に残りました。
ゲッベルスはフリードリヒ大王の奇跡の逸話でヒトラーを盛り上げ、
ブッセの第9軍にも同じ話で士気を高めようとしますが、ある将校は皮肉交じりに質問します。
「それで、今度はどこの女帝が死ぬのですか?」
そんな重い雰囲気のなか、ルーズヴェルト大統領の死の報がもたらされて
「やはり奇跡は起きた!」と盛り上がり、後任の大統領トルーマンは怒らせないよう、
悪口禁止戦術を展開するゲッベルス・・。
しかし、米国の態度は以前と何も変わらず、またもやションボリです・・。

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一人のスーパーマンを思い出したヒトラーは数か月前に片足を失った男に託します。
急降下爆撃機で戦艦1隻、戦車500両を撃破してきた不死身の男、ルーデル大佐です。
彼にすべてのジェット戦闘機を指揮させる命令を下すものの、
そんな知識のないルーデルは言い訳を並べ立てて、必死にお断り・・。
真夜中過ぎにようやく総統から解放されるのでした。

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そこで軍事の天才ヒトラーがひらめいた「シュタイナー軍集団」による、ジューコフ軍への反撃ですが、
結局はシュタイナーがなんの行動も取らないことから、例のヒトラー史上最大の怒りが爆発し、
「戦争は負けた!ベルリンに残って自殺する」と宣言。もう精神的にも肉体的にもボロボロです。。
ボルマンやカイテルヨードルにもベルヒテスガーデンのゲーリングのもとへ行くよう指示しますが、
ヒトラーを奮い立たせたい彼らは、「ヴェンクの第12軍」の存在を伝えます。
これに目を輝かせるヒトラー・・。再び希望と決意が蘇り、ヴェンクにベルリン救出の
最後の望みを託します。

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最後はいつものようにゲーリングとヒムラーの裏切りに憤慨し、
ゲッベルスの子供たちや飛んで来たハンナ・ライチュとの交流、
また、ゲーリングの後任に任命したフォン・グライムが、ヒトラーが初めて乗った飛行機の
パイロットであったという運命的な話をもう一度・・。
そしてエヴァとの結婚と心中・・で終わります。

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本書は戦記中心ではなく、ヒトラー個人がテーマですから、エヴァ・ブラウンの話も多いのかと
思っていましたが、実際のところ、そうでもありませんでした。
これは著者が生存者へのインタビューや残された公式文書などを手がかりとしていることから
かなりの間、秘密の存在であった彼女自身もヒトラーと運命を共にしたことで
噂話やゴシップのようなものは無視した感じがします。
私はヒトラーの秘書だった」のユンゲ嬢が語るエヴァのエピソードや
その最年少秘書の彼女を父親のように温かく見守るヒトラーの人間らしいエピソードも
所々に登場し、これが彼の複雑な人間性をうまく表現しています。

Emmy Göring with Adolf Hitler.jpg

また、そのようなことは全巻を通して言えるようで、著者トーランドは、
ヒトラー個人のエピソードを彼がインタビューした人物の口から語られたことを
良い悪いは別にして、伝説よりも重要視しているようにも感じました。
また、モレルの薬により体調が悪化の一途を辿っても、その場しのぎの回復を望むだけで
「千年帝国」などとしていたヒトラー自身が独裁者らしく末永く君臨しようとしていたとは
相変わらず思えません。
もともと戦争が終わったら引退する・・などと語っていたというヒトラーですから、
戦争に勝利して、ナチス・ドイツ帝国が確固たるものとなれば、あとは後継者に・・と
考えていたのは事実のように感じました。
とにかくオカルト独裁者が考えがちな不老不死なんか興味なしで
常に死を意識し、「死ぬまでにやらねば・・」と思っていたんじゃないでしょうか。。

そういう意味では、彼は死ぬことを怖れておらず、「勝利か、無か」と語っていたように
特に軍人に対してはスターリングラードのパウルスを筆頭に「死」を要求したのは
彼が残酷な人間だからではなく、「失敗したら死ぬものだ」と当然のように考えていた
ようにも思いました。

Führer mit seine Soldaten.jpg

最後の「感謝の言葉」も「5年以上に渡ってヒトラーに耐えてくれた」日本人の奥さんにも感謝・・。
個人的にも「そりゃないだろ」などということのない、イメージ通りのヒトラー像で、
どなたが読んでも満足できる、バランスの良いヒトラー伝だと思います。

ただし、本として良かったからといって、コレがヒトラーの真の姿である・・
などとは思っていません。
誰でもそうですが、人間、発言したこと全てが本心であるわけでもなく、
上司が部下に対して、仕事上、やる気を起こさせるために、大げさに言ったり、
怒ってみたりすることは当然ですから、その真意が理解されずに誤解を招くこともあるでしょう。
ヒトラーという人物を悪魔ではなく、人間としてイメージできたのは間違いないですが、
やっぱり、彼の本音と真の姿を理解することは不可能なのか・・とも考えます。

次は来年になると思いますが、「ヒトラー 最期の12日間」を書いたヨアヒム・フェストの
上下巻の大作「ヒトラー」も持ってますので、本書と比較しながら読んでみようと思っています。
でもその前に「エヴァ・ブラウン―ヒトラーの愛人」が気になってしまいましたし、
数冊連続シリーズとしては、ウィリアム・シャイラーの有名な
「第三帝国の興亡」全5回シリーズも予定しています。