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ナチを欺いた死体 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実 [英国]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ベン・マッキンタイアー著の「ナチを欺いた死体」を読破しました。

2011年10月に発刊されたときから気になっていた469ページの本書は、
1943年にシチリア上陸を目指す「ハスキー作戦」の欺瞞工作として実施された
ワリと有名な作戦の全貌を暴いた一冊です。
一口に言うとこの欺瞞工作とは、連合軍が翌年のノルマンディ上陸でも徹底して行ったように
上陸場所はシチリアではなく、ギリシャとサルディーニャ島であると書かれた手紙を持った
英将校の死体を拾わせて、それをヒトラーを信じさせようとするものです。

ナチを欺いた死体.jpg

まずは英国がドイツに宣戦布告した1939年9月の英国海軍情報部から・・。
諜報作戦を立案する際立った能力のある男、イアン・フレミング少佐と、
その上司の部長ゴドフリーによって作成された機密メモが各軍情報部に配布されます。
ドイツ人を騙すための方法が51個も提案され、その中には
「調理法を記した爆薬を詰めた缶詰を海に流し、腹を空かせた敵艦船の乗員が回収して
火にかけたとたんに全員を吹き飛ばす」といった卑劣な方法に、
「死体に空軍兵士の軍服を着せ、重要文書をポケットに入れて海岸に落とす」。
このような突拍子もない案を考えつくフレミング少佐は、後に「ジェームズ・ボンド」を生み出し、
部長のゴドフリーは彼の小説に登場する007の上司「M」のモデルなのです。

IanFleming.jpg

そして時は過ぎ、1942年になると空軍情報・保安部の大尉で、「MI5」に臨時転属していた
チャムリーによって「死体に重要文書」が具体的に拡張され、
作戦が海軍主導となったことから海軍情報部のモンタギュー少佐とコンビを組むことになります。
しかし当初は10ポンドも出せば陸軍病院から簡単に死体は手に入ると思っていた彼らですが、
それが驚くほど難しいことに気がつくのです。
つまり軍人にふさわしい年齢で、死んだばかりで、目立った外傷や疾患がなく、
遺体を赤の他人が理由も告げずに持って行っても近親者が文句を言わない・・。
まぁ、フランケンシュタインのモンスターを作るようにはいかないわけですね。

Charles Cholmondeley_Ewen Montagu.jpg

1943年1月12日に死亡が宣告された34歳のウェールズ人、グリンドゥール・マイケル。
独身で、金も家族もいないこの男の死因は殺鼠剤を服毒したことによるもの。
有名な法医学者でも死因の解明ができないような死体が手に入り、冷蔵保存されます。
かくしてシチリア上陸「ハスキー作戦」の欺瞞工作「ミンスミート作戦」が本格的に始動。
「ミンスミート(Mincemeat)」とは刻んだドライフルーツの洋酒漬けや挽肉などの意味で、
英国では定められたコードネームを蓄積し、その作戦完了後に戻して、
再度利用するというシステムなんだそうです。

これはコードネームというものは、スパイにしろ、軍参謀にしろ、
立案者が洒落の利いた暗示的なモノで意味を持たせたがることを懸念したものであり、
ドイツ軍の無頓着さを参考にして、英本土上陸の「あしか作戦」に触れています。
あしかはドイツ語で「ゼーレーヴェ(Seelöwe)」、英語で「シーライオン(Sea Lion)」ですが、
ライオンは英国の紋章であり、その国に海から攻撃するという
なんとも単純なコードネームだとしています。確かにそうですねぇ。
朝日ソノラマに「幻の英本土上陸作戦」という、「もしも本」があったのを発見しましたので
今度、読んでみようかと思います。

Coat of Arms of England -1340.jpg

しかし実はココからが大変です。
グリンドゥール・マイケルはドイツ人が怪しまない身元のしっかりした軍人に変身しなければならず、
そのための写真つきの身分証、財布の中には生活臭に溢れた品々が必要ですし、
なにより連合軍の上陸場所が誰でも想像できるほどみえみえのシチリアではなく、
ギリシャとサルディーニャ島であると書かれた手紙の信憑性をどのようにするか??

mincemeat_identity-card.jpg

海軍将校にすると、「これ見よがしの」制服を新調するために死体の寸法を仕立て屋に測らせるという
おぞましい仕事が必要になることから、軍服のサイズが規格化された「海兵隊」に決定。
軍装一式を調達したチャムリーは以後、毎日その服装で過ごし、使用感を出すことにも専念し、
名前もマーティン少佐に決まって、情報部の可愛い女の子の写真に手紙が財布に収められます。

Operation-Mincemeat.JPG

ようやく準備作業であるマーティン少佐の私物が整うと、ドイツ軍を騙す手紙の偽造が始まります。
英陸軍参謀次長アーチー・ナイ少将から北アフリカのアイゼンハワーの元で
軍を指揮しているハロルド・アレキサンダー大将への私信という形で作成。
モンタギューの草稿は「アイゼンハワーとの仲はどうかい?」とか、
モントゴメリーの頭がデカい」ことをからかう悪意のない言葉もちりばめられますが、
それから1ヶ月間、情報部の様々な人間が口を挟み、何度も書き直し・・。
最終的には参謀総長のアラン・ブルックまでが登場して、
「本物らしさを出す最善の方法」としてナイ少将本人が欺瞞の手紙を書くことになります。

Nye_Alexander.JPG

ついでとばかりに連合作戦本部司令官のマウントバッテン卿から
地中海艦隊司令官カニンガム元帥に宛てた手紙も作成。
本書にはこの「完璧な手紙」も全文掲載されているのが良いですね。
こうして英首相チャーチルと「ハスキー作戦」を指揮するアイゼンハワーも、
「ミンスミートに完全な許可を与える」のでした。

グリンドゥール・マイケルとして死んでから、3ヵ月間冷蔵されていたマーティン少佐。
いよいよ出動のために軍服に救命胴衣を身に付けますが、
両目は落ち込み、皮膚は毒素による黄疸で黄色くなっています。

The body of the Welsh tramp, Glyndwr Michael.jpg

特注の死体運搬容器にドライアイスが詰められてスコットランドへ車で出発。
そこからジュエル大尉の潜水艦「セラフ」に乗り換えて、
スペインの南西、アンダルシアのウエルバ沖を目指します。
もちろん艦長以外には容器の中身は秘密。。
狭い艦内では乗組員たちも楽しくマーティン少佐と一緒に過ごすのでした。

Martin Jewell, Capitán del submarino HMS Seraph.jpg

無事にミッションを完了し、ジブラルタルから「荷物は無事配達」と書いた絵葉書を
モンタギューに送ったジュエル艦長。
スペイン人漁師が溺死体を発見し、スペイン海軍の大尉に引き渡されますが
ここからは完全なスパイ小説のような展開となります。
すなわち中立国のスペインと、その首都マドリードにおける英独のスパイ合戦です。

The Man Who Never Was _1956.jpg

英独双方のスパイは死体の持っていた手紙の存在に気がつきますが、
躍起になって手に入れようとするドイツ側に、すぐに返してほしい"フリ"をしつつ、
なんとかドイツ人の手に渡らせようとする英国側・・。
いくらドイツ寄りのスペインであっても、英国将校が保持していた手紙を
勝手に開封するなどという行為は政治的にも芳しくなく、
スペイン側に気を使って返されたら、「ミンスミート」は元も子もありません。
ロンドンで待つモンタギューも、イライラが頂点に達しています。

Ewen Montagu.jpg

ドイツ側のクラウス、キューレンタールといったスパイに加え、
国防軍防諜部(アプヴェーア)部長カナリス提督も絡んで、
見事手紙のコピーをゲットすることの出来たドイツ。
この情報に英独双方が万々歳・・。

それでも48時間以上、この手紙を調べたアプヴェーアは「信憑性は五分五分」と報告。
さらに真贋を立証する任務はドイツ国防軍の情報機関の要、「西方外国軍課」が
担当することになるのでした。
この「西方外国軍課」の課長は男爵アレクシス・フォン・レンネという中佐ですが、
銀行家の出身で几帳面で融通が利かず、頭が恐ろしく切れるキリスト教徒と紹介されます。
ちなみに、この当時の「東方外国軍課」の課長は、あのラインハルト・ゲーレンですね。

Alexis Freiherr von Roenne.jpg

やがてヒトラーのお気に入りで、疑り深いレンネの出した答えは「本物」。。
著者はこの彼の出した答えに疑問を呈します。
その最も大きな理由は、翌年のノルマンディ上陸作戦の欺瞞工作もそのまま報告し、
英国にいる44個師団を89個にまで水増して報告するという連合軍にとっての立役者であり、
その後のヒトラー暗殺未遂事件で逮捕、処刑されたことから、
「反ナチ」将校としてドイツを敗戦に追い込むために真実を報告しなかったとしています。

von Roenne 1944.jpg

ヒトラーとドイツ軍はサルディーニャ島の兵力を倍増し、戦闘機も追加配備。
それからバルカン半島のドイツ軍師団も8個から18個に増え、
ギリシャには海岸砲台を設置して、防衛部隊も1個から8個師団へと増強します。
まもなく始まるソ連との一大決戦「クルスクの戦い」の前に苦労してますねぇ。。

Wolfsschanze meeting.jpg

「ミンスミート」のあおりを喰らって兵員を割かれたケッセルリンク元帥の守るシチリアでは
ヘルマン・ゲーリング師団」などが奮戦するものの、、
あっという間に降伏するイタリア兵の多さに、その戦力だけではどうにもなりません。

tiger_goring.jpg

こうして大成功を収めた「ミンスミート作戦」のかかった経費はたった200ポンドほど。。
戦後、モンテギューは「実在しなかった男」を出版し、
ベストセラーとなって1956年に映画化もされますが、
相棒のチャムリーに、ドイツの暗号機エニグマを解読していたウルトラ、
そして「マーティン少佐」の正体など、書けないことがあまりに多く、
本書はそれらをすべて解明しようと書かれたものということです。

the-man-who-never-was-movie-poster.jpg

著者は「ナチが愛した二重スパイ 」という本も書いていて、
主役となるのは本書にも登場する「ジグザグ」というコードネームのスパイです。
ですから、本書も戦争ものというより、スパイものといった雰囲気でしたね。
007の作者、イアン・フレミングの話も初めて知りましたし、
007モノ、一度、チャレンジしてみようか・・という気にもなりました。

From-Russia-With-Love.jpg

映画で一番好きなのは、ヘスラー大佐が登場する「ロシアより愛をこめて」ですが、
初めてロードショーに行ったのは「ムーンレイカー」です。
でもコレ原作が評判良いですね。
元ナチス親衛隊の生き残りの復讐・・といった話のようで、独破戦線向きかな??

「Uボートで来たスパイ―あるナチス・ドイツ諜報員の回想」っていうのも
かなり前から気になっています。











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コメント 2

IZM

昨日うちの2号と007の話をしていて、「あんなド派手なスパイ、ありえん!本物のスパイは全然印象の残らない顔してるらしいぞ!」とか話していたばかりですが。。。。wwww 
さて、タイトルからして面白そうですが、すごい内容ですねえ。こういう小細工もあの大戦の中であったのだと思うと感銘深いですwwwww

by IZM (2013-02-28 22:18) 

ヴィトゲンシュタイン

ボクは若い頃から英国の地味~なスパイ小説を読んできましたから良くわかります。それもあって007の原作は敬遠してたんですけどね。。
英国は小細工好きな感じですね。暗殺計画したり、伝統的なものなのかな??
片やドイツは堂々とやるのが国民性なのか、単にコソコソやるのが下手なのか・・??
by ヴィトゲンシュタイン (2013-03-01 08:01) 

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