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爆撃機 [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レン・デイトン著の「爆撃機」を読破しました。

ここのところ、「戦闘機」、「SS-GB」と著者デイトンの本を楽しんできましたが、
4年前に買っていたハードカバーの上下2段組、569ページの「戦争小説巨編」に挑んでみました。
四発爆撃機小説としては、去年に「戦う翼」という映画化もされた小説を紹介していますが、
あちらが米軍のB-17"フライング・フォートレス"の話だったのに対して、
英国人の書く本書は、当然、アブロ・ランカスター爆撃機が主役です。
しかし、訳者あとがきを先に読んでみると、英独あわせて100人もの人物が登場し、
メインの主人公もおらず、これだけのボリュームなのに、たった24時間の話・・という、
なんとなく「いちばん長い日」、つまり「史上最大の作戦」のドイツ無差別爆撃版といった趣です。

爆撃機.jpg

まず登場するのは英国に基地を持つ、爆撃機の飛行小隊の面々です。
小隊長は若干22歳のスイート大尉。
そして4つ年上のランバートは軍曹ですが、部下たちの人気を得ようとやっきのスイートに対して、
ドイツの都市を爆撃することを公然と嫌だと語るランバートが主役の雰囲気です。
毎度小説を読む時はその顔をイメージするヴィトゲンシュタインは、
今回その名前から、現在アストン・ヴィラの監督を務め、1995年にヨーロッパ・チャンピオンに輝いた
ドルトムントでセンターハーフだったスコットランド人、ポール・ランバートをイメージして読み進めます。

Paul Lambert dortmund.jpg

「1943年6月31日夜のドイツ空襲に参加したある英空軍爆撃機の最後の飛行をめぐる出来事」
というのが原書の副題になっているそうですが、この存在しない架空の日の目標に選ばれたのは
やはり架空の町であるルール地方のクレフェルトです。
一方、ドイツ側ではその架空の町クレフェルトの西に位置するオランダ国境に近い
人口5千人の田舎町アルトガルテンの様子。
46歳のアウグスト・バッハ家の朝、旦那様と10歳の息子の朝食を作る
22歳のアンナ=イルザの姿があります。
彼女は「RAD/wJ」、すなわち女子勤労奉仕隊の制服隊員であるわけですが、
「わたし旦那様が好きです」と告白してしまうと、空襲で妻を失っていたバッハも
「あんたが好きだよ。わしと結婚しておくれ」となって、すぐさまベッドへ直行。。
アンナ=イルザは可愛らしくて、ヒロインの雰囲気ですね。

RAD maiden with a young girl.JPG

また、オランダにあるドイツ空軍夜間戦闘機の基地では、
金髪で背が高く、優雅な身のこなしの男爵フォン・レーヴェンヘルツ中尉が登場。
確認戦果28機で、いつ騎士十字章を受章してもおかしくない夜戦エースです。
こういう人物はどうしても「プリンツ・ヴィトゲンシュタイン」を想像してしまいますね。

Heinrich Prinz zu Sayn-Wittgenstein, at the age of 22.jpg

大きく以上の3つが舞台となって、24時間の物語が入れ代わり立ち代わり進みます。
7人乗りのランカスター爆撃機の小隊の基地にある全16機が出撃準備に入り、
小隊長のスイートはランバートの腕利き搭乗員を自機に引き抜こうと画策。

レーヴェンヘルツは部下が手に入れたダッハウ強制収容所で行われている
ドイツ空軍医務局のジークムント・ラシャー博士の悪名高い「実験」の報告書を目の前にして、
彼の信念を揺るがせるほどの衝撃を受けます。

Dachau medical experiment for the Luftwaffe.jpg

その頃、爆撃機基地では最終ブリーフィングが。
爆撃機700機を投入する大作戦であり、ランカスターの他、ウエリントン、ハリファックス、
スターリングといった各爆撃機も参加することに古強者たちは歓声をあげます。
これはランカスターの喪失率5.4%に対して、旧式のスターリングは
低い上昇限度でのろのろ飛ぶことから、その喪失率は12.9%という甚大なものであり、
対空砲火の矛先がそちらに向かってくれることを知っているからです。

avro-lancaster-bomber-01.JPG

オランダにあるドイツ軍のレーダー基地では、その巨大なフライヤ・レーダーのアンテナが
英爆撃機が飛び立ったことを早くも探知。
そしてその基地の指令は、「旦那様が好きです」ことアウグスト・バッハ中尉です。
このレーダーの役割については細かく書かれていて、広い範囲をカバーするフライヤ以外にも
ヴュルツブルクという2基のレーダーがあって、1基は味方夜間戦闘機の位置を捉え、
もう1基は英爆撃機の進路を1機ずつ捉える・・というものです。

Würzburg Radar.jpg

すぐさま夜間戦闘機の基地に迎撃要請が伝えられ、3人乗りのJu-88に乗り込むレーヴェンヘルツ。
ちなみに彼の乗機の名は「猫1号」です。。
同乗するレーダー員と観測員の仕事も詳しく書かれた夜間戦闘機の戦闘方法っていうのは、
大変珍しいと思いますね。真っ暗な中、計器を頼りに受け持ちの空域を旋回しながら待機し、
レーダー基地からの指示によって、敵爆撃機が飛ぶ方向へ誘導され、
近づいてきたら自機のレーダーによってさらに接近。
最終的には目視で巨大な四発重爆の姿を捉えるのです。

nachtjäger ju 88.JPG

海峡を渡ろうとする爆撃機の方でも、それぞれ1機ごとに名前があり、
オレンジのO、シュガーのS、ラブのL、ゼブラのZというのが正式名称ですが、愛称があります。
ランバートのランカスターは何度も傷ついて、修理を重ねた機であることから「がたぴしドア」、
スイート大尉は「スイートのS」、そして「フォルクスワーゲン」に「ジョー・フォー・キング」。。
特に「ジョー」というのはヨシフ・スターリンのことですから、「スターリンを王に」という
基地司令の大佐からも目を付けられている危険な爆撃機なのでした。

avro-lancaster-bomber.JPG

やがて「フォルクスワーゲン」の背後に迫った「猫1号」。
20㎜機関砲180発が「フォルクスワーゲン」の下腹に吸い込まれます。
「脚をやられた!ああ、母さん母さん母さん!」と叫ぶフレミング機長。
爆発によって無傷のまま暗闇に放り出される無線手。ですがパラシュートは抜き・・。
しかし、たった3機の夜間戦闘機が、700機の重爆全てに同じ目を合わせられるハズもありません。

Wireless_Operator.JPG

アルトガルテンでは空襲警報が鳴り、クリスマス・ツリーのように美しい照明弾を眺めるアンナ。
本来、もっと東の町クレフェルトを狙った照明弾が街の片隅に、誤って落ちてきたのです。
爆撃機隊員たちは、あとで恥をかかなくて済む程度に、出来るだけ早く爆弾を投下したがります。
そうすれば少し先のルール地区の高射砲とサーチライトの密集陣を横目に旋回して、
無事、帰路につくことができるからです。

flares.JPG

こうして目標ではない田舎町アルトガルテンに爆弾の雨が降り注ぎます。
子守の少年と共に、貴重品の詰まった頑丈な地下壕へ逃げたアンナ=イルザ・・。
しかし建物が崩れて、出口は塞がれてしまうのでした。

bombing-Lancaster.jpg

第1波に続いて、第2波が襲ってくると、住人だけではなく消防隊員たちですら、
精神と肉体の限界を超えた精神症に侵されていきます。
現れた白髪の老人は「頼むから、わしを死なせてくれ」と訴えますが、
上級小隊長のボドは「黙れ、死ぬ時が来たら、俺がそう言ってやる!」と一喝。
すると老人は第1次大戦時の軍隊口調で答えます。
「はっ、わかりました。少尉殿」。

Freiwillige Feuerwehr.jpg

人望のないスイート大尉の「スイートのS」もやられます。
なんとか体勢を整えようと奮闘するスイート機長ですが、部下たちは勝手に脱出を始めたりと
機内は混乱状態に。。やがてスイートはアルトガルテンに墜落するのでした。

avro Lancaster clash.jpg

ようやくアンナ=イルザの埋まった地下壕に救援が辿り着きます。
「わたしきっとバッハさまの良い奥さんになってみせますわ」と喜ぶ彼女。
そのとき、頭上の爆発延期装置付きの600ポンド爆弾が爆発。
彼女の体の一部でさえ、発見されないほど、木端微塵に・・。
う~ん。彼女は生き残るかなぁ・・?と思ってましたが、デイトンはやっぱり容赦ありません。。

Bombing of Dresden.jpg

88㎜高射砲の射程外の高さを飛び、帰路についたランバートの「がたぴしドア」には、
夜戦エース男爵操る「猫1号」が迫ります。
その時、ドイツ海軍の放った105㎜高射砲弾が炸裂。
双方の機に重傷を負わせたこの1発により、3名の死者を出した「がたぴしドア」は
海峡を越えて英国の基地をなんとか目指します。
そして味方の高射砲の破片が腹に食い込んだレーヴェンヘルツも部下に脱出を命じ・・。

Lancaster Pilot.jpg

1979年発刊の大ボリュームの一冊でしたが、英独双方に良い人間もいれば、
ムカつく人間もいて、それらに関係なく死んでしまう小説です。
例えば、第12SS「ヒトラー・ユーゲント」の編成のために東部戦線からやってきた
ライプシュタンダルテの将校は、一時避難した地下壕から貴重品を持ち去ろうとしたところを
アンナ=イルザに邪魔されると、顔面に1発お見舞いし、彼女は前歯が吹き飛びます。
そしてそんな腹立たしいSS将校には、対ソ戦で生き延びてきた術があり、
街を襲う爆撃なんてどこ吹く風とばかりに、サイドカーで走り去っていくのです。

今回イメージしたポール・ランバートがルール地方のドルトムントで活躍したというのも
なにかの因縁のようにも感じましたし、
戦争という大きなうねりの中では善も悪もなく、人間は、ただ悲惨な死に巻き込まれているだけ・・、
というようなことを改めて感じさせる一冊でした。



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コメント 5

Lina

初めまして。
Linaと申します。m(_ _)m
少しずつ拝読させて頂いておりますが、凄く分かりやすくて読みやすく、大変タメになります^_^
感想を書くのが下手なので、短文で申し訳ありません:
またお邪魔させて頂きますm(_ _)m
by Lina (2012-12-23 12:40) 

ヴィトゲンシュタイン

Linaさん。ど~も、はじめまして。
いや~、そんな風に褒めてもらうと恥ずかしいですねぇ。。
過去の記事でも構いませんから、気兼ねせず、遊びがてらにまたコメントしていってください。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-12-23 18:04) 

Lina

ご丁寧に返信頂きましてありがとうございますm(_ _)m
まだ全てを拝読出来ていないのですが、ハイドリヒがお好きなのでしょうか?^_^
私はメルダースからドイツに入ったのですが、ラインハルト・ハイドリヒが一番好きです。
日本語の資料が少ないのですが、ヴェルナー・バウムバッハも好きで、資料を探しております。
またお邪魔させて頂きますm(_ _)m
by Lina (2012-12-28 13:24) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、Linaさん。
メルダースからハイドリヒという流れですか。ある意味凄いですね。ボクにはちょっと共通点が・・??
ボクはハイドリヒを好きというと語弊があるので、一番興味がある人物といったところにしておきましょうか。。
それからバウムバッハとは実にシブイですね。彼が出てきた本は「WW2ドイツの特殊作戦」でのKG200くらい(一応、有名なポートレート付き)しか思いつきませんが、爆撃機隊は戦闘機隊から嫌われてましたから、どうしても日陰の存在になってしまうのが可哀そうですね。
またお待ちしています。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-12-28 19:37) 

久保寺 進

ヴィトゲンシュタイン様 名前はひょっとして「ルートヴィッヒ」でしょうか?
戦争小説の凄いのをご紹介したいのですが・・・小説「ロンギヌス迷宮」といいます。空技廠からドイツへ派遣された海軍技術将校を中心に、占領下のパリ、ベルリン、V2ロケット開発していたコッヘル(Kochel)、ボルドー、勿論、横須賀・・を舞台にしている。ペーネミュンデ(V2、A4施設)が爆撃された場面などは取材が凄いので記述が「ホントの話」?と思う。更に凄いのは戦争話だけで終わらない、どこか宗教観、歴史観が漂い、現代日本の諸相とでもいうべき姿を見つめさせられます。ご紹介まで。そう、そう数理哲学者でしたよね、あなた。B ラッセルに宜しく!
by 久保寺 進 (2013-01-27 21:44) 

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