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愛と欲望のナチズム [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

田野 大輔 著の「愛と欲望のナチズム」を読破しました。

9月に出たばかりの本書は、「ヒムラーとヒトラー―氷のユート​ピア」と同じ、
「講談社選書メチエ」からの紹介となりますが、何と言ってもタイトルが良いですねぇ。
「ナチス = エロ」というイメージを持った方もそれなりにいらっしゃるとは思いますが、
まぁ、「ナチ女秘密警察 SEX親衛隊」とかいう洋ピン映画も沢山作られましたし、
SSの黒服がSMボンデージっぽく扱われたりしてますからね。。しかし本書は
「産めよ殖やせよ。強きゲルマン人の子を大量に得るために性の解放を謳うナチズム。
従来の定説を覆し、欲望の禁止ではなく、解放により大衆を支配しようとした
ナチズムの生政治の実態・・」という、「欲望」こそ人並みですが、
「ナチズム」を勉強中で、「愛」に飢えているヴィトゲンシュタインには個人的に興味深い、
296ページのマトモな研究書です。

愛と欲望のナチズム.jpg

まず第1章では、ヒトラーの「わが闘争」から、彼が考える「性道徳」についてです。
早期の結婚を激励し、若い夫婦に健全な子供を産ませるという人口、人種政策。
そして上流社会の親たちが娘を金持ちの男に嫁がせるのは、「愛の売春化」であり、
「精神生活のユダヤ化」といった、愛を欠いた金目当ての結婚は、娼婦と同じ「不道徳」なもの・・、
というヒトラーなりに真剣な主張も含まれていたとしています。

hitler_Goebbels_Gretchen.jpg

また、本書ではSS機関紙「黒い軍団(ダス・シュヴァルツェ・コーア)」からの引用も多くあります。
キリスト教の倫理に基づく「未婚の母や私生児」に不道徳の汚名を浴びせる、
当時の保守的な性道徳を否定し、「婚外性交は決して妨げることはできない」と、
健全な欲望は肯定されますが、もちろんそれは女性に向けられたものだけです。

男性同士の同性愛は「国家政治的危険」とみなされ、徹底的に撲滅が図られ、
自慰行為でさえ「精子の浪費」と呼ばれて、危険視されます。
こうして第2章の「健全な性生活」では、ゲーリング研究所での同性愛者に対する
精神療法が詳しく書かれます。
例えばゲシュタポは同性愛を区別していて、「1度だけ逸脱した者」や「誘惑された者」は、
保護観察として精神療法の対象となりますが、「常習犯」や「複数の相手を誘惑した者」は、
強制収容所送りです。いわゆる「ピンク・トライアングルの男たち」というわけですね。
もう、この本は読もうと思いつつも、なかなか手を出す勇気がありません。。

The Nazis forced gay men to wear pink triangles in concentration camps during World War II.jpg

第3章は「男たちの慎み」と題して、狂信的なモラリストであるSS全国指導者ヒムラー
SSを中心として、彼らの性-政策の論理を追います。
もちろんヒムラーのゲシュタポに「男色撲滅課」があったくらいですから、
彼の同性愛嫌いは大変です。
ヒムラーの試算によればドイツには100万人から200万人の同性愛者がおり、
この数字はドイツ人男性の10%が子供を作らないことを意味します。
また、1934年に「長いナイフの夜」で絶滅した突撃隊(SA)が、トップであるレーム自ら
同性愛者であり、戦闘的な男性集団に同性愛の害毒が容易に蔓延することを
レームの舎弟であった彼は理解しており、またそれを恐れてもいるのでした。

himmler Röhm.jpg

そしてSS隊員が「他の男性とわいせつ行為を行った」場合、死刑に処し、
軽度の場合でも6年以上の懲役刑が総統命令で決定して、満足するヒムラー。。
政府は多産を激励して「母親十字章」を制定し、SSも「レーベンスボルン協会(生命の泉)」を設立し、
人種的に申し分ない女性の中絶を防止して、出産できる機会を与えます。
しかし結局はこの施設で生まれた子供は12000人に留まるのでした。

Lebensborn-Abzeichen.jpg

戦争が始まると、帰休兵が若い娘と出会えるようにと、
ダンスや催しを大規模に組織するよう総統命令が出されます。
1940年7月のフランス降伏までに、「国防軍の催し」が約10万回開催され、
休暇の楽しみ以外にも、結婚と出産の増加も意図されています。
そして売春婦の逮捕は控えめにして国防軍御用達の売春宿も方々に設置。

BDM Belief and Beauty Society hand out presents to wounded soldiers at an entertainment evening..jpg

続いては「美しく純粋な裸体」の章で、第三帝国におけるヌードの位置づけを考察します。
1933年に「肉体訓練同盟」の機関誌である「ドイツ裸体文化」が刊行を認められ、
以降、いくつかのヌード写真を掲載した雑誌類が刊行されます。
しかし、これらは決していかがわしい「ポルノ」や「エロ本」ではなく、
あくまで、芸術的な視点で美しい肉体美を表現したものです。。
ですから、↓ のような写真で興奮したアナタは「アウト!」ですよ。

Suren_mensch-und-sonne-nackt-skifahren-u-turnen-fotos.jpg

ドイツ芸術展に出展された絵画にも裸体画が多くを占め、マティアス・パドゥアの「レダと白鳥」なども
ヒトラーに賞賛されます。本書は数ページごとに白黒で小さいながらも写真が掲載されており、
コレがなかなか珍しいものが多くて楽しめます。
ゼップ・ヒルツの「農村のヴィーナス」という絵画も写真付きで紹介されていますが、
「窃視を楽しむ男性の視線に応じるかのように艶めかしく輝いている」と、確かにエロティック・・。

Sepp HilzBäuerliche Venus, 1939.jpg

このような文化統制の全権を握っていたのは宣伝大臣のゲッベルスですが、
大臣自身が女好きで、女優の卵に片っ端から手を出していたエロ親父ですから大変です。
キャバレーの裸のダンスも容認し、「ヒラー・ガールズ」も大衆的な人気を博すことに・・。

Hiller-Girls.jpg

また、ドイツ女子青年団(BdM)には、健康で美しい肉体への喜びが求められますが、
過剰な肉体的鍛錬は、女性本来の優美さを抹殺する恐れがあります。
ゲッベルスは語ります。「女子は優雅で美しく見えなければならない。
適度な肉体訓練は役立つが、腕や脚に隆々とした筋肉が付いたり、
歩兵みたいな歩き方になってはいけない。ベルリンの少女たちが
男みたいにされていくのを許すわけにはいかない」。

Bund Deutscher Mädel.jpg

さらにこの問題はSS全国指導者の悩みの種でもあります。
「娘たちがしっかりと背嚢を背負って田舎で行進しているのを見ると災難と感じる。
女性が男性化するとなると、もう同性愛への道は遠くない」として、
高い知性と優美さを兼ね備えた女性を養成するエリート学校の創設を夢想するのでした。

German sailors flirting with a group of BDM.JPG

第5章「欲望の動員」では、歓喜力行団(KdF)が登場。
うたい文句は「喜びを通じての力」ですから、なんとなく展開が想像できますね。
グストロフ号やロベルト・ライ号といった豪華客船クルーズでは
毎晩船上でダンスと情事が繰り広げられ、救命ボートにコッソリ乗り込んだカップルも
夜中に何度も引きずり出さねばなりません。
そしてハンブルクのレーパーバーンは当局によって清潔な売春街となり、
そこは歓喜力行団の船旅の、安全で楽しい訪問地になるのです。

KDF Ship Robert Ley on its maiden voyage. L Mrs. Ley, and Hitler.jpg

親の目の届かないヒトラー・ユーゲントやBdMのキャンプやハイキングも問題に・・。
総統に子供を贈るよう教育されて育った少女たちは、自らの不品行を正当化し、
14歳から20歳の少女たちの性交と妊娠の報告も多くなり、
13歳の少年少女が3人ずつ集まって一緒にわいせつ行為に耽ったり、
15歳の少女はフランス人捕虜と倒錯的な性交をして「ドイツ人よりもあれがずっとうまい」と語ります。

RAD boys & girls.jpg

そして捕虜を相手にするのは少女だけではありません。
ドイツ人男性の多くが戦場へと旅立ち、売春宿で過ごしている時、妻たちは
ポーランドやチェコ人の外国人労働者とも親しく付き合い、2万人もの私生児が生まれます。

国防軍には女性補助員もいるわけですが、
「兵士たちはみな、最もだらしない男でさえ、女性補助員と結婚したくないという点で
意見が一致している」とある兵士は証言します。
「彼女たちの性病感染は第1次大戦を上回るほど増加している」と、
その身持ちの悪さを批判し、「将校用マットレス」と呼んでいたり・・。
国防軍の売春宿の話はこの章にもしっかりと書かれ、強制収容所の売春宿についても同様です。

helferin.jpg

正直、日本人の著者によるナチス本というのは当たり外れがあるので心配でしたが、
本書は完全に「かなり当たり」の部類に入りました。
最後の60ページは注釈なので、実質230ページですが、
ヴィトゲンシュタインよりもちょっと若い、著者の京大卒の教授が
ベルリンの連邦文書館などに通いつめて、一次史料による裏付けに挑んでいるようです。
その注釈の部分もかなり興味深く、うまく本文に反映して欲しかったと思わせるほどですし、
ヒトラーの考え方や、ヒムラーのSSだけでなく、ゲッベルス、ロベルト・ライなど
ナチ党幹部の性に関する考え方にも触れて、ナチスとしての相変わらずの一貫性のなさや、
1930年代と戦争の始まった1940年代との必然的な違いも極力わかりやすく書かれていました。

This girl is all for Nazism.jpg

特に「BdM」についてコレだけ赤裸々に書かれたものは読んだことがありませんでしたし、
ヒトラー・ユーゲントの本が何冊も出版されているなら、
BdMに特化した本があっても良さそうなものだと思いました。
本書では彼女たちの青少年全国指導者、フォン・シーラッハやアクスマンが
ほとんど登場しないので、不品行に対する有効な施策すらなかったのか・・など、
日本には隠れBdMファンが多い??ですから、ウケそうな気もしますね。





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コメント 2

IZM

うわ~、タイトルが本当に魅力的ですねw
今回また写真もすごいw
内容も面白そうですが、今ワタシが小休止中の「ドイツ支配民族。。。」とかぶってるので、アレを読み終わらなければ、これも無理だろうと感じます。。。www あの本をよむのがしんどくて、ちょっとお休みして「ブッダのことば スッタニパータ」の方を読み始めたら、本当にすさんだ心が洗われました。www

by IZM (2012-11-08 08:14) 

ヴィトゲンシュタイン

>今ワタシが小休止中の「ドイツ支配民族。。。」
そ~ですか。。ボクのような人間と、IZMさんのようなお子さんお持ちの女性では、やっぱり内容的に思うところが違うのかなぁ・・??

本書を読んでて、「ハンブルクのレーパーバーン」が出てきたとき、先日のIZMさんのハンブルク・レポートを思い出しました。今回は、あのレポのおかげで楽しめた次第です。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-11-08 19:34) 

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