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ヒットラー売ります -偽造日記事件に踊った人々- [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ロバート・ハリス著の「ヒットラー売ります」を読破しました。

マルティン・ボルマン記の「ヒトラーの遺言」を読んで、いろいろと調べていた最中に見つけた本書。
30年ほど前に世間を騒がせた、「ヒトラーの日記」事件の顛末を綴ったモノ・・ということで、
騙す方、騙される方の心理、特に「本物のヒトラーの日記であってほしい・・」という
騙された側の心理を知りたくて、1988年発刊の本書を読んでみました。
著者の名はロバート・ハリス。。
聞き覚えがあると思っていましたが、あの「ファーザーランド」の著者ですね。
コレも今回、触手が動いた要因のひとつです。

ヒットラー売ります.jpg

まずは終戦直後の1945年、ヒトラーの死を調査するトレヴァ=ローパーが主人公です。
英国情報部員の彼は、ヒトラーの側近たちなどを尋問し、ヒトラーの従兵ハインツ・リンゲの日記も
資料として役立て、映画ヒトラー 最期の12日間」のシーンにもあったヒトラーの遺言も
発見するなどして、「ヒトラー最期の日」を発表。ヒトラー関連の第一人者になります。
1952年には1000ページの「ボルマン・ノート」が世に現れると、トレヴァ=ローパーも
編集を手伝い、いわゆる「ヒトラーのテーブル・トーク」や「ヒトラーの遺言」として発表。
1970年代には、鉄のカーテンの向こうの謎めいた筋から1万ページの「ゲッベルスの日記」が・・。
当然、編集の依頼を受けるのは「ヒトラーの専売特許権」を持っているようなトレヴァ=ローパーです。

GOEBBELS DIARIES Trevor-Roper.jpg

この1970年代はナチス記念品を扱う市場が空前の活況を呈し、
ヒトラーのメルセデスは、アリゾナで15万ドルで売れ、
総統地下壕にあったヒトラーの私物の入った籠には、ネヴァダの富豪が6万ドル投げ出し、
自殺したヒムラーが掛けていた眼鏡を手に入れる英国人、エヴァの頭髪一房を3500ドル、
ニュルンベルク裁判で絞首刑に使われた縄を死刑執行官から入手して、
これを細切りにして売りさばく米商人・・。

mercedes_benz_770k_cabriolet-hitler-_fvrtopmax.jpg

そんな英米中心のナチス・コレクター市場ですが、ゲーリングが所有していたヨット
カリンⅡ」号を手に入れたのが41歳のドイツ人で本書の主役、ゲルト・ハイデマンです。
「シュテルン誌」の平凡なジャーナリストである彼は自宅を抵当に入れてまで
16万マルクで購入したものの、ヨットの損傷が酷く、修復費はかさむばかり・・。

Carin II_Heidemann.jpg

手放す決意をして購入希望者を求めて、さまざまな関係者やコレクターと接触するうち
ゲーリングの娘、魅力的なエッダと知り合い、徐々に旧ナチスの人々が・・。
それらは最後まで総統官邸を守った元SS少将で63歳となったモーンケに、
ヒムラーの幕僚長を務めた元SS大将で74歳のカール・ヴォルフ
さらにリンゲや女流パイロット、ハンナ・ライチュといった面々です。
やがて実業家のコレクターと知り合って彼の自宅を訪れると、膨大な第三帝国の記念品が・・。
そして一冊の黒いA4ノート・・。1935年の半年分の「ヒトラー日記」と出会うのでした。

1981年、デーニッツの葬儀に訪れたハイデマン。
公的禁止令にも関わらず、昔の制服に身を固めた老人たちが多数参列しています。
ヒトラーの副官だったオットー・ギュンシェらに「日記」の存在を伝えるも、
「それはあり得ない」という解釈です。それでもハイデマンの確信は頑として揺るぎません・・。

Karl Wolff.jpg

そして彼は遂に「日記」を手に入れられる人物、コンラート・クーヤウと接触することに成功。
しかし子供の頃から芸術的才能に恵まれたクーヤウは、ヒトラーの絵の贋作を60点も作成し、
東ドイツから密輸した本物に、自ら偽造した文書を織り交ぜて、闇市場で売る詐欺師です。。
表紙に赤蝋のシールを付け、ヒトラーの所有であると保証するヘスの署名の入ったラベルも・・。
なかのページには紅茶を振りかけて、年代物のように。。
そんなクーヤウは兄が東ドイツの将軍で、数冊づつ、密輸できるとハイデマンに語るのでした。

Hitlers_falsche_Tagebuecher.JPG

思い込みの激しいハイデマンと、彼の会社では5人だけがこの「日記」の存在を知らされます。
この「日記」全27巻を1冊、8万5千マルクで買い取ることが決定。
直接クーヤウと売買を行うこととなったハイデマンはクーヤウに1冊5万マルクを提示して、
差額の3万5千マルクを毎回かすめ取り続けます。
その金は彼の個人的蒐集として、(クーヤウの描いた)ヒトラーの絵から、
「ヒトラーが自殺のときに使用した」とボルマンの保障が書かれたベルギー製のピストル、
ブローニング までもホイホイ購入します。。
すっかり得意のハイデマンはコレを見せびらかしますが、
実際はワルサーだったことを知っているギュンシェからはたしなめられる始末・・。
なんでも信じてしまう実に騙されやすい男ですね。。

GUNSCHE.JPG

こうしてクーヤウが1962年に出版された「ヒトラー演説・声明集1932~1945」という
年表を抜粋して書き続ける「ヒトラー日記」。センセーショナルな記述のない、退屈極まる代物・・。
本書ではいくつか抜粋して紹介しますが、ココで書く価値もないので割愛します。。

シュテルン誌では日記の鑑定を行うことにしますが、この日記の存在は極秘であり、
情報漏れを恐れて、おおっぴらに鑑定が依頼できません。
警察などに部分的な筆跡鑑定を依頼して、一応「本物」との結果にシャンパンの栓が弾けます。

Generalmajor der Waffen-SS Wilhelm Mohnke Heidemann.JPG

しかし、英米での権利を獲得したメディア王、ルパード・マードックは
「タイムズ」紙の名誉役員であるトレヴァ=ローパーを鑑定に向かわせるのでした。
そしてドイツ語の専門家ではない彼には大方のドイツ人でさえ読みこなせない
古い筆記体で書かれた日記は解読不能で、翻訳してもらわなければなりません。
表紙のゴシック文字の「FH」の組み合わせは全員が「F」を「A」と勘違いしているほどです。
紙質も化学検査を受けて問題ないなどの明らかな嘘でミスリードされたヒトラー専門家。
彼は徐々に本物であると確信していくのでした。

いよいよ世界に向けて「ヒトラーの日記発見」の声明が・・。
ライヴァル紙が信憑性を求めて問い合わせるのは、「ヒトラーの戦争」をこき下ろされ、
妻との離婚で財産を失っていたデイヴィッド・アーヴィングです。
まさに衰退していた彼に救いの手を差し伸べたヒトラー。。。

Stern Presents Hitler’s Diaries (April 22, 1983).jpg

1983年4月24日、サンデー・タイムズ紙にトレヴァ=ローパーお墨付きの「日記」が掲載されると、
信憑性に対する攻撃が高まります。
ヒトラーの空軍副官だったフォン・ベローや秘書のクリスタ・シュレーダーが「大うそ」と証言し、
翌日発売するシュテルン誌の記者会見場に意気揚々と乗り込むアーヴィング。

April 1983 hielt Heidemann während einer Pressekonferenz in Hamburg stolz eines der angeblichen Tagebücher in die Kamera.jpg

モーンケも出席した会見場では日記を抱えてポーズをとるハイデマンの姿が・。
そしてトレヴァ=ローパーへ質問が集中すると、出所は明かされず、検証用のコピーも届かず、
「ボルマンが本物だと証明しに来る」と言い切るハイデマンに疑惑を抱き、
徐々に疑わしさを拭いきれなくなっていた彼は、「日記は本物かもしれない。
しかしずっとイカサマ臭い。つまるところは完ぺきな偽作と呼ぶべきものでしょう」

Der britische Historiker und Hitler-Experte Hugh Trevor-Roper, Stern-Chefredakteur Peter Koch, Redakteur Dr. Thomas Walde und Reporter Gerd Heidemann auf der Stern-Pressekonferenz.jpg

予想外の展開に顔面を強張らせて黙り込むシュテルン誌のメンバー。。
そのとき、中央のマイクに突進したアーヴィングは、コピーを振りかざし「偽物だ」。
日本のTVクルーが混乱に輪をかけ、会場は椅子やライトが飛ぶ事態に・・。

Der britische Historiker David Irving bezeichnete schon auf der Pressekonferenz des Hamburger Magazins Stern am 25. April 1983 die Tagebücher als eine Fälschung.jpg

こうしてドイツ政府までが乗り出して、連邦公文書館で行われた鑑定の結果、
紙やインク、記述の間違いなど、真っ赤な偽物であることが正式に立証され、
彼が信じていたすべてが崩壊したハイデマン。
クーヤウとともに禁固4年の判決を受けるのでした。。

Die Angeklagten Konrad Kujau (r) und Gerd Heidemann (l) am 21. August 1984 vor dem Hamburger Landgericht. Sie wurden wegen schweren Betrugs verurteilt..jpg

ハードカバーの2段組、356ページと、思っていたよりボリュームのある本書。
後半のドタバタ振りは映画にでもなりそうだなぁ・・と思いながら読んでいましたが、
調べてみると案の定、1992年にドイツで「Schtonk!」という映画になっていました。
日本未公開だと思いますが、なんとなくドタバタコメディのような感じもしますね。

Schtonk!_1992.jpg

本書でもいくつか「ヒトラー日記」の内容が紹介されていますが、
せいぜい英首相チェンバレンを褒めていることやヘスが英国に飛び立つことを知っていたこと
程度が新発見であり、この日記を読んだ誰もが「恐ろしく退屈なもの・・」という感想を持ちます。
では、なぜこの日記が大騒ぎになったのかというと、日記はつけなかったとされていたヒトラーが
「日記をつけていた」ということが、彼のそれまで言われてきたことを覆す
「人格の新発見」になるんだそうです。

また、その「内容」はともかくとして、「ヒトラーが書いた本物の日記が手元にある」ことが、
携わった人々を興奮させた・・ということですが、この心理はわからなくもないですね。
ヒトラーや第三帝国関連のオリジナル収集家だけではなく、
「なんでも鑑定団」を見ててもわかるとおり、なんだかわからなくても「本物」と信じていたり、
興味も無く、読めない掛け軸でも有名な誰それが書いた「本物」なら有難がるわけで、
個人的にはあのTV番組での鑑定結果は100%正しいのか・・?と以前から疑問にも思っています。

Konrad Kujau.jpg

大富豪の米国の収集家が発表したヒトラー絵画の本の1/3程度が
クーヤウの描いた贋作だった・・という切ない話も出てきますし、
最近もオークションで1913年にヒトラーが描いたとされる「夜の海」が
3万2000ユーロ(約323万円)で落札されたというニュースがありましたが、
ど~も、この絵・・。本書を読む以前にネットの記事で見たときから「胡散臭い・・」と
思っているんですよねぇ。
ヒトラーの絵画はいくつか見ていますが、素人目にもタッチが全然違うし、
波間の感じなんか、ちょっと上手すぎる・・。

ヒトラーの風景画落札_20120129.jpg

この絵がどのような鑑定をもって「本物」とされたのかはわかりませんが、
購入したのは純粋な美術品収集家ではなく、第三帝国マニアでしょうから、
本書のように贋作を騙されて・・なんて気が余計してしまいます。。





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コメント 2

しゅり

こんばんは、ヴィトゲンシュタインさん。
ロバート・ハリスといえば「暗号機エニグマへの挑戦」もありますね。
コレ映画ともどもおもしろかったです。
ファザーランドやヒトラー売りますもすっかり古書扱い。。。。
おもしろい本を書く作家だと思うのですが出版している本の少ないこと。

さて、上のヒトラーの絵画。
私はあまりヒトラーの絵は知らないんですけど
新聞でこの絵を見て、ホントかなぁ・・・と思いました。
まさにヴィトゲンシュタインさんと同じでこの波のうまさが引っかかっています。
by しゅり (2012-03-09 05:16) 

ヴィトゲンシュタイン

お~、「暗号機エニグマへの挑戦」もありましたね。コレ出た当時、本屋さんで買おうか悩みました。
しかし映画??になってたとは知りませんでした。
なぜか製作者にミック・ジャガーの名が・・。しかも出演も・・??

>新聞でこの絵を見て、ホントかなぁ・・・と思いました。
同調者の方がいて、安心しました。まったく根拠はないんですけどねぇ。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-03-09 07:04) 

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