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ヒトラーの最期 -ソ連軍女性通訳の回想- [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

エレーナ・ルジェフスカヤ著の「ヒトラーの最期」を読破しました。

今年の6月に発刊された、いわゆる「ヒトラーの最期」モノの最新の一冊です。
556ページで4200円という立派な本書は、ドイツ語通訳として従軍した著者が
ヒトラーの遺体と歯形X線写真探索にも関わり、意外な真相が明かされる・・という内容で、
個人的にはヒトラーの死の真相などにはそれほど興味がありませんが、
本書を図書館で思わず予約してしまった理由は、「ソ連軍女性通訳の回想」という
若干いかがわしい雰囲気を持った副題と、表紙も飾る著者の写真に惹かれた・・という
まことに男らしい不純な動機です。。

ヒトラーの最期.jpg

まず「はしがき」を読んでみると、本書はやや特殊な構成をしていて
250ページ程度の中心部分となる第4章「1945年5月、ベルリン」は1965年に出版されたもので、
日本でも「ヒトラーの最期―独ソ戦の裏面」というタイトルのダイジェスト版が翻訳されています。
今回、著者によって最新版に増補されており、さらに著者がベルリンに辿り着くまでの従軍記録が
3章に渡って設けられ、最後には引退した「ジューコフ元帥との対話」も収められています。

ということで、1941年10月、ドイツ軍の攻勢に脅えるモスクワの様子から始まる本書。
ベラルーシ生まれでモスクワ育ちの21歳の著者は、以前に紹介した「モスクワ攻防1941」に
書かれていたのと同様、動員計画により、女友達と看護師速成講習会へと赴きますが、
ここでは前線勤務に派遣されません。
そこで軍の通訳養成所が緊急に生徒を募集していることを聞きつけ、
子供時代にドイツ語も多少学んでいたこともあって、最初の修了生として「中尉」の襟章を受領。

Elena Rzhevskaya.jpg

しかし軍の通訳たるもの、通常の会話が出来るだけでは当然ダメで、
指揮官がドイツ人捕虜を罵倒する際に、通訳がどう訳すか知らなければ困りものです。
「いかさま師」、「コソ泥」、「食人種」、「青二才」、「ヒトラーの犬」、「ケツ野郎」、
SS隊員に対しては「てかてかのクソッタレ」と書かれた「罵詈雑言辞典」が作成され、
ドイツ兵と遭遇した時には「止まれ!」では威嚇が足りないことから、猛烈な罵倒も学びます。
「いいか、大人しくしないとすぐにお前の頭を壁にぶち込んで、脳みそをスプーンですくわせてやる」

こうして最初に派遣されたのは第8空挺旅団。ドイツ軍の背後に落下傘降下する任務ですが、
そのような訓練もしていない女性通訳が派遣されてきたことに憤る旅団長。。
そして参謀本部に戻された彼女の元に、その旅団長戦死の報がもたらされます。

Воздушно-десантные войска.jpg

その後は無事立派な通訳として、捕虜のドイツ兵とも接する彼女。
前線の向こう側にいるのは敵、しかしこちら側にいる捕虜は犠牲者・・と
ドイツ兵に対する複雑な感情も語りながら様々なエピソードが書かれています。
まるで「戦争は女の顔をしていない」のエピソードを彷彿とさせる展開です。

特にポーランドのブロンベルク解放の様子はとても興味深いものでした。
まずフランス軍捕虜収容所が解放されると、ベレー帽をかぶった身だしなみの良い
ジロー将軍の副官が登場し、捕虜のポーランド人や収容所から出てきた各国のユダヤ人たちも。。
米軍飛行士と長身の英兵、つばの広い緑色っぽい帽子をかぶっているのはアイルランド兵です。
彼らは抱き合い、歌を唄い、ヒソヒソ声で成長した子供たちも喉も破れんばかりに声を張り上げ、
これまで知らなかった声の力を堪能する一方で、とっくに逃亡したドイツ兵に取り残された
ドイツ人女性は大きな荷物を持ち、罵声を浴びながら、西へと向かって行きます。

Elena Rzhevskaya_Berlin1945.jpg

そんななか、動揺している一団が・・。
それは同じくドイツ軍の収容所から解放されたイタリア兵たちです。
「自分たちは彼らの目に敵と映っているのか・・?」
さらには、ドイツの軍服を着た一団も彼女の前に現れ、申告します。
「我々はオーストリア人です!」
しかし彼女は仕方なく彼らに告げるのでした。
「皆さん、残念ながら、あなたたちは敵軍兵士です」

ドイツ軍兵士たちの手紙を翻訳するのも彼女の仕事のひとつです。
本書では、戦争末期のドイツ兵や家族が書いた手紙も何通か紹介されていて、
特に最後の望みである「新兵器」についてはいろいろ書かれています。
兵士の父は「"国民突撃隊"が新兵器だと言われている・・」と書きしるし、
兵長の妻はガソリンが無いことを皮肉り、「その新兵器は乗員53名の戦車で、
操縦士1人に射撃手2人、そして50人は戦車を押すのです!」

Deutscher Volkssturm.jpg

メインとなる「1945年5月、ベルリン」の章は、ジューコフ元帥の第1白ロシア方面軍に属する
第3突撃軍の通訳として当時、彼女が見聞きしたことにとどまらず、
戦後、苦労をして集めた資料を元にヒトラー最期の数日間をドキュメンタリー・タッチで
なかなかの迫力をもって書かれています。
ネタとなっているのは総統ブンカーで発見され、彼女が翻訳したゲッベルスの日記
残されたボルマンのメモ。「私はヒトラーの秘書だった」のユンゲ嬢やハンナ・ライチュの女性陣、
さらに総統警護隊長ラッテンフーバーに、侍従長リンゲや副官ギュンシェ
運転手ケンプカらの供述調書などです。

Otto Günsche.jpg

ハンス・エーリッヒ・フォス海軍中将とブンカーの医師や料理人、車庫技手などの証言から
ゲッベルス一家の遺体を発見/確認しますが、ヒトラーの遺体は行方知れず。
誰かが誰かに語ったところによると、完全に火葬されたヒトラーの遺骨は、
モーンケ戦闘団に加わったヒトラー・ユーゲント全国指導者アクスマンが持ち去った・・というもの。
5月3日にはヒトラーに似ているという人物の死体が総統官邸の玄関ホールに置かれ、
ドイツ人たちが全員「総統ではない」と確認するまで長時間放置されて、その間に報道カメラマンが
この死体を撮影し、「ヒトラー」として出回ったという裏話も・・。

Hitler_Artur Axmann.jpg

また、このベルリン滞在の様子も女性らしい観点から非常によく観察していて、
歩道で生活するドイツ兵や、瓦礫を片づける女性などのベルリン市民たち。
一方のソ連占領軍の様子も善悪織り交ぜて伝えつつ、友達が張り切って交通整理する姿や
軍服から解放されて、ワンピースをやっと着れた・・という喜びなど・・。

Wounded German soldiers line Unter den Linden.jpg

本来、第5突撃軍の管轄区域である総統官邸でヒトラーとエヴァの遺体と思われるものを
発見した彼女たちのチームは、手柄とばかりにコッソリと運び出し、残っている顎骨から
特定するためにヒトラーの歯科医も探し出して、遂に確証を得るのでした。
しかし、この大手柄もなぜかスターリンは世界に発表することはありません。。。
ここはあまり詳しいことは書きませんが、ヒトラーや参謀総長クレープスの死因も
青酸カリなのか、拳銃によるものなのかについても彼女なりに結論を出しています。

In this trench Kempka burned the bodies of Hitler and Eva Braun.jpg

個人的に一番楽しめたのが「ジューコフ元帥との対話」の章です。
1965年、彼女の発表した「1945年5月、ベルリン」の原稿を読んだジューコフから突然の電話。
そして家に招かれ、「当時、ヒトラーが発見されたことを知らされなかった・・」と告白されます。
それが今なぜ問題なのかというと、彼はいま、自身の回想録に取り掛かっており、
ちょうどベルリンに達したところ・・、
このことについてどう書くべきか・・知っていたフリをするのか、恥を忍んで認めるのか。。
こういうわけで、彼女に情報提供を求めるジューコフなのでした。

Montgomery and Zhukov.jpg

「なぜスターリンは私に教えなかったのだろう?」と語るジューコフに
彼女は逆にスターリンについて尋ねます。
「彼は恐ろしかった。彼がどんな目をしていて、どんな視線を持っていたか、わかるかな?」
そして赤軍大粛清にも触れて、彼が「我がロシアの軍事巨星団の一等星」と呼ぶ
トハチェフスキー元帥への仕打ちについても
「どうして話もせず、言い分も聞かずにいられたのか、これに関しては彼を許すことが出来ない!」と
熱く語りますが、彼の回想録にはそんな感じはまったくありませんでしたね。
しかし、読んでいて感じたこの疑問も読み進むうちにハッキリとします。

оминания и размышления.jpg

戦後、英雄ジューコフはスターリンによってウラル軍管区などの司令官に左遷されたものの、
スターリンの死後、国防相として復権しますが、1957年に党中央委員会の策謀で再び失脚。
こうして彼は本の仕事に没頭するわけですが、美化された「大祖国戦争史」を強烈に批判し、
「私は全てをありのままに書いている」という情報がスパイによってフルシチョフにももたらされ・・。
完成した彼の回想録はフルシチョフが失脚しても発行は許されず、4年の時が過ぎ、
削除、書き込み、補足を無理強いされ、力点を変えさせられて、ようやく陽の目を見ます。

そして彼の死から15年経った1989年から、ようやく彼の草稿通りに刊行されるようになった・・
ということで、自分の読んだ日本版は1970年の翻訳ですから、
当然、ジューコフの思い描いていた内容とは違うわけなんですね。。

Georgi Konstantinovich Zhukov.jpg

巻頭の写真ではクレープスの法医学解剖の写真が載っていますが、
まるで宇宙人の解剖のようです(別にグロい写真ではありません)。。
その他、本文には一切写真が無い本書ですが、これらは「KGBマル秘調書」に
ゲッベルスやヒトラーの顎骨のカラー写真が載ってましたね。
本書を楽しまれたなら、あちらの本もオススメします。
しかし、そのメインとなる前後の章は、ヒトラーの最期とは別の楽しみをもたらしてくれるもので、
タイトル通りの単なる「ヒトラーの最期」モノとは一線を画した、読み応えのある1冊でした。

と、偉そうに書いたものの、実は有名な「ヒトラーの最期」モノ2冊を読んでないことに
気づきましたので、勢いで購入しました。それは・・
ゲルハルト・ボルトの「ヒトラー最後の十日間」と、トレヴァ・ローパーの「ヒトラー最期の日」です。





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コメント 2

IZM

面白そうな1冊ですね。
しかし、当時ロシア・ヨーロッパでは女性がこんなに活躍していたというのは驚きですね。
あと、ずいぶん前ですがソ連からヒトラーの死体写真が発表されたとニュースになった当時「眉唾っぽい。。。。」と思っていましたが、これをよんで「案外証拠写真なんかもあったかも?」という気もしてきたりして。
「通訳は背信者」なんて言葉も昔はあったそうですが、この時代の通訳は色んな経験をしたことでしょうね。。。

by IZM (2011-08-15 18:36) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も・・、寝違いヴィトゲンシュタインです。

本書はホント予想外の3部構成で面白かったですよ。
あ~、いろいろ書きたいことあるんですけど、もうダメ・・。左肩が・・。


by ヴィトゲンシュタイン (2011-08-15 20:30) 

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