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ドキュメント 封鎖・飢餓・人間 -1941→1944年のレニングラード- [ロシア]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

A.アダーモビチ, D.グラーニン著の「封鎖・飢餓・人間」を読破しました。

独ソ戦における戦いのなかでも特異な戦役ともいえる「レニングラード包囲」。
ドイツ軍は当初、北方軍集団によって、この帝政ロシア時代の首都占領を目指しますが、
結局は、ヒトラーが街全体を包囲することで「飢死」させることを選択します。
有名な「キエフ包囲」や「スターリングラード包囲」の対象となったソ連軍やドイツ軍ではなく、
ここで包囲されたのはレニングラード市民です。しかもその期間は3年弱・・。
この詳細については以前、ソールズベリーの「攻防900日」という本を紹介していますが、
今回は当時の包囲下にあった市民へのインタビューや当時の日記などによって、
彼らの恐ろしい生活ぶり・・。そして、どのようにして生き延びることが出来たのかを検証しています。

ドキュメント 封鎖・飢餓・人間.jpg

最初にレニングラード包囲に付き物の特に有名な写真が出てくると、
この写真の親子へのインタビュー・・という凄い「掴み」から始まります。
1942年春に従軍記者が撮ったこの写真の母親は34歳、左で杖を突く女性は13歳の娘。
「ひどい栄養失調で、これはもう、足というより、皮に包まれた骨です。
まるでお婆ちゃんのように醜い姿になって…」と、当時を回想します。

leningrad_1.jpg

当時の医師たちへのインタビューでも、最初に死んだのは筋肉質で脂肪の少ない男性で、
女性も脂肪質がなくなると筋肉や血管が透けて見えるようになって、
老人のような姿になった・・と、証言しています。

このドイツ軍に包囲された1941年の冬は、食料事情は最悪で、
配給されるパンは一日わずか125gだけ・・。
125gというと、6枚切りの食パン、2枚・・という量です。
労働者や前線の兵士はほんの少し多く与えられましたが、それでもとても十分ではありません。
ちなみに本書ではドイツ軍はほとんど登場せず、せいぜい銃剣の先に「白パン」を刺してかざし、
降伏するように呼びかける程度です。。。

The Siege of Leningrad.jpg

犬も猫も食べてしまった市民は様々なものを食料として活用します。初めて聞いた話では、
昔の北極探検者の話を思い出し、「革バンド」に手をつけるというもの。。。
しかし昔の「なま革」とは違い、科学的に加工された革バンドは、煮ても煮ても煮溶けず・・。
なんとか食べてもなんてことのない、まったく味気ない代物だったということです。
これには思わず、チャップリンが「黄金狂時代」で靴を食べるシーンを思い出しました。

The Gold Rush chaplin.jpg

「からし」で美味しいパンケーキができるという噂が広まると、からしを手に入れようと
凄い行列が・・。しかし焼きあがったパンケーキを2枚も食べると、ツーンとくる激しい痛みが広がり、
大勢の人が腸をやられて死んでしまいます。

若い民兵も普段のように立ち話をしている途中に突然、座り込み、
「あぁ、なんだか体の調子が・・」と、喋り方がゆっくりに・・そして、そのまま・・。

Leningrad blockade, 1942.jpg

病院でも飢餓状態の人を入院させますが、200gのバターと食パン半個を
一度に食べてしまったその人はその晩に死んでしまいます。
当時の医師も、このような状態の人間に多量の食物を与えてはいけない・・ということを
知らなかったそうです。

冬になって凍りついたラドガ湖の「氷の道」は市民に食料と希望をもたらしはじめます。
そして、衰弱した市民の疎開も始まりますが、病んでやつれた人々には
この30㎞の「氷の道」はあまりにつらく、多くが脱出の途中で・・または脱出後に死んでいきます。
猛スピードで飛ばす車が隆起した氷で揺れると、衰弱した母親の腕の中から、
乳飲み子も飛んで行って・・。

Ladoga 1942.jpg

問題なのは飢餓だけではなく、厳しいロシアの寒さも大敵です。
ガソリンや油もなく、工場や施設向けの燃料用として、地元の防空隊の兵士によって
木造家屋は次々に取り壊されます。
実はこの兵士とは、18~19歳の飢えて衰弱した若い娘たちで、
鉄の棒で一日がかりで家を取り壊し、大ゾりで運ぶという力仕事です。
ここで出た「薪」の一部は、彼女たちに分配されますが、市民にとって、
この「薪」は大変重要なものでもあります。

市民は本を燃やして暖をとり、それが無くなれば、家具も燃やして寒さを凌ぎます。
市場にタンスを持って行っても誰も見向きもしないのに、その場でタンスを壊して
薪にすると、20ルーブルで買い手がつきます。
それでも多くの住居はドイツ軍の砲撃によって、窓も吹き飛んでいます。。

leningrad-faim2.jpg

飢えた子どもたちはパン泥棒やかっぱらいという手段にもでます。
配給のパンを店員から受け取った女性の手から、サっと奪い取ってムシャムシャ・・。
怒り狂った女性たちが逃げられないよう店のドアを閉め、その少年を殴り始めますが、
少年は必死でパンを呑み込み続けます・・。

工場で働いていた女性から「戦車に塗る油があるからいらっしゃいよ」という話では、
「それが実にすばらしいものなんですよ。みんな喜んで食べましたし・・」。
こうなってくると、なにが食べれて、なにが食べられないのか、もう、良くわかりません。。。

Leningrad_24.jpg

その工場では生産が始まったばかりのカチューシャ・ロケット砲の砲弾も作りますが、
ここで働くのは熟練工ではなく、男たちの代わりにやって来た女性たちです。
工場内でさえマイナス22℃という酷寒での難しい作業に泣き出すひとも・・。
また、別の工場では前線に出た親の代わりに12~13歳の少年、14歳の少女が
作業台に届くようベンチや箱に乗って作業をします。
家が爆破されることを恐れる少女は大事な「お人形」も連れてきて・・。

女性にはさらに過酷な仕事・・「死体集め」も待っています。
毎日、死体を集めては特別な車で墓地まで運搬。
とにかく冬の間にこの作業をしないことには、「疫病」が生きている人を脅かすことになるのです。

Leningrad_11.jpg

このように一生懸命に働き、義務を果たした市民だけではなく、「腹黒い人間」も紹介されます。
市場で買ったバターのかけらをその場で呑み込んだニーナは死にかけますが、
実はそれは表面にバターを塗った「石鹸」で・・。
さらに託児所の食糧を横領して、横流しした職員・・。子供たちは当然死んでいきます。

優しかった母親でさえ、飢えからおかしくなっていき、配給券を無くしてしまった子供を
追い出してしまうという話も出てきますが、
それでも親子の愛情はやっぱりあるもので、母親は、子供により多く食べてほしいと願うものです。
娘のワーリャは言います。「食べなきゃわたし、死ぬわ。でも私が食べてママが食べなきゃ、
ママが死ぬわ。でも私はママなしでは生きられないの」。

Leningrad_29.jpg

アパートでは自主的に各部屋を巡回する女性も。
ある部屋でベッドでこと切れた若い母親を見つけますが、1歳半の子供は生きています。
そして赤ん坊は母親の身体の上を這って、乳を吸っています・・。
このあたりは、ほとんどホラー映画のような雰囲気です。

最初の、最も苦しかった冬をなんとか生き残ったレニングラード市民。
1942年の春を迎え、パンも300gに増えて大喜びです。
植物園を訪れて、よろい草という名の雑草もお腹いっぱい食べたり・・。

Leningrad_02.jpg

全体的な印象としては、「攻防900日」の「戦争は女の顔をしていないバージョン・・
といった感じでしょうか?
ただし、原著が書かれた当時はまだまだ「ソ連」の時代ですし、
著者の一人はレニングラードの前線でドイツ軍と対峙していた兵士だったということですから、
ソ連と市民たちをかなり「英雄視」している風でもあります。
そんなこともあってか、噂に聞く「食人鬼」などの話は、さすがに出てきません。

We will defend the city of Lenin!.jpg

それでも訳者あとがきに書かれている、1941年の11月に1万人、12月に5万人が餓死。
最悪だった1月と2月には、一日の餓死者が1万人を超える日もあったということですが、
当局も実態を掴みきれなかったようで、全体の死者数も100万人は下るまい・・ともされています。

ソ連時代という意味では1974年の「レニングラード攻防戦」がソ連映画の大作して有名ですが、
2009年に英/ロ合作の「レニングラード 900日の大包囲戦」というのもDVDで出てました。
主演はミラ・ソルヴィノにガブリエル・バーンです。
内容はイギリス人ジャーナリストのケイトは現地で激しい空襲に合い、孤立・・。
アメリカ人ジャーナリストの恋人フィリップとも離ればなれになり・・という感じのようですが、
ガブリエル・バーンは昔からファンなので、ちょっと気になります。

レニングラード 900日の大包囲戦.jpg

本書は上下巻ですが、1冊200ページちょっとなので、2日で読みきる程度のボリュームです。
これなら特に上下巻にする必要もなかったと思いますが、
1986年発刊という、やや古い本ですからね・・。









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コメント 11

IZM

すさまじい内容でございました。。。餓死させる作戦は殺し合いよりもある意味酷いかもしれません。 極限にお腹すかせた人がかっぱらいという犯罪を犯すのを、ワタシは攻められないですよ(泣
当時はどこの国も銃後は同じように大変だったのですね。軍需工場に女性や子供が働かされたり。
あと、まんが日本昔話でも、貧乏な農民が腹いっぱい白いごはんを食べて次の日亡くなっていたという話があったのを思い出しました。
by IZM (2011-06-22 17:00) 

ヴィトゲンシュタイン

こんばんわ。
自分は「飢餓」というものに昔から興味があって、本書のようなレニングラード包囲については第2次大戦とは別の視点で見てしまいます。
例えば1993年の映画「生きてこそ」は1972年、アンデス山脈に墜落した飛行機の生存者が、犠牲者の人肉を唯一の食糧に生き延びていたという実話でしたし(これを初デートに選んだヴィトゲンシュタインです・・)、当時のロシアのコルホーズ(集団農場)によって飢えに飢えた農民が、ドイツ軍の侵攻によって解放されると、倉庫に貯蓄されていた食料を食べまくって、バタバタ死んでいった・・という、「まんが日本昔話」そのまんまの話・・。
一番強烈だったのは、モダンホラーの帝王、スティーヴン・キングの短編で、事故で無人島に辿り着いた医師が、自分の足や手をメスで切り取って食べる・・という日記形式のヤツですね。
本当に腹減ったとき、自分はどうするのか・・犯罪を犯してまで生き延びようとするのか、それとも黙って死を受け入れようとするのか、生への執着が自分にどれだけあるのか・・。その時にならなければ答えの出ることではないですが、単純なことだけに、良く考えます。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-22 19:37) 

ヴィトゲンシュタイン

IZMさん。コメント返信にチカラ入り過ぎて、大事なこと書き忘れました。
「テストカキコ」 okです。
問題は「返信」が無事か・・です。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-22 19:59) 

IZM

>問題は「返信」が無事か・・です。
返信はどうやって受け取れるんでしょう?

>自分の足や手をメスで切り取って食べる・・
キングの小説は知りませんでしたが、映画「野生の証明」だったかな、の冒頭シーンにもナイフで自分の腕を食べる、というのがあって、見た当時は子供だったから、ちょっとショックでした。orz
映画「生きてこそ」は学生時代、「人肉を食べてみたい」と公言する解剖学の先生が張り切って観に行った感想を述べていて、その時はスルーしてしまいましたが、今思うと、ソフト化もされていないし観に行っておけばよかったなあと、ちょっと後悔していますが。。。。 デートのお相手は、鑑賞後大丈夫でしたか?
ちょっと前ですが、あの飛行機事故のドキュメンタリー映画が公開されましたよね、日本で。 あちらも興味あります。

>本当に腹減ったとき、自分はどうするのか・
沢山代価食品があるというのに、日本では米騒動であんなに騒いだり贅沢な悩みですよね。。。 自分の子どもも好き嫌い多いので、戦時中の書物をよむ度申し訳ない感じです。
by IZM (2011-06-22 21:47) 

ヴィトゲンシュタイン

>返信はどうやって受け取れるんでしょう?

メッセージを出した訪問者はメールではなく、メッセージを出したブログの上でダイアログが開いて、そこで返信を見るという仕組みになっています。
利用者がブログを閉じていた場合、メッセージは、利用者が次回ブログを開いたときに表示されます。

ということなんだそうですが・・??

>デートのお相手は、鑑賞後大丈夫でしたか?

映画自体のその場面は、凍ったお尻の肉を薄く切り取って食べる・・という「ビーフジャーキー」的な食し方でしたので、えげつなさはありませんでしたが、その晩、お相手に食べられそうになりました。。
そうそう、ドキュメンタリー映画もあったようですね。これは自分も観てないんです。

子供の頃、親戚の家ではご飯粒ひとつ残すだけで「お百姓さんに申し訳ないから、一粒残さず食べなさい」とよく怒られました。
だけど、お米がどうやって出来るのか知らないし、その苦労もわからなかった当時は、不貞腐れてましたね。。子供には言って聞かせるだけでなく、体験(見るとかも含めて)させて理解させることが大事なのかなぁ・・と、独身男ヴィトゲンシュタインなりに書いてみました。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-22 22:13) 

IZM

こちら時間でおはようございます。
お返事はお書きになられましたか?
Sonetブロガーじゃないと見られない、とかあるのかなあ。。。
もし何かございましたら、ヤフーブログの方は内緒機能があるので、そちらも推奨。
>その晩、お相手に食べられそうになりました。。
ちょっと笑ってしまいました^^

今の子どもには、食べ物のありがたみが分かんないですよね。。。。 何でもスーパーにあるんですから。農業体験とか、いいアイデアですね。
by IZM (2011-06-23 16:09) 

ヴィトゲンシュタイン

こんばんわ。東京はねっちりと暑くて、もう晩酌タイムです。
ちなみにヴィトゲンシュタインはドイツビールも大好きですけど、この2年ほどハウス・ビールはヱビスのザ・ホップというヤツです。

で、返事は書いたんですけどねぇ。ど~も

現在サーバプログラムの問題があり、Flash機能が有効に動作していません。メッセージ送信者の環境でクッキーが有効でない場合、返事を受け取ることができません。(返事を受け取れない可能性があることをご了承ください。)
Flash機能については、開発者の時間があるときに対応したいと思っております。

ということのようです。
ヤフーブログに引っ越すかなぁ?
こんど、内緒機能でコメントしてみます。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-23 19:21) 

レオノスケ

ヴィトゲンシュタイン様こんばんは。
お久しぶりです。
私の住んでる県は3/11以来世界一有名になりました。一種のモルモットですね。太平洋戦争中の日本兵も孤島に置き去りにされたりして棄民状態でしたが我々も棄民状態です。

ところでAKB48の「カチューシャ外しながら~」を聞くと「ロシア兵」かよってツッコミ入れたくなります。
ぜんぜんコメントになってませんね。

震災後まったく読書ができる精神状態ではありませんでしたが
倒れた本棚にあったマンシュタインの「失われた勝利」(フジ出版社)を現在再読しております。


by レオノスケ (2011-06-24 20:59) 

ヴィトゲンシュタイン

レオノスケさん。こんばんわ。
そうですか。大変でしたね。。
まだまだこれからも大変な日々が続くんだと思いますが、応援しております。
東京のヴィトゲンシュタインの周りでも、3.11を契機にBlogの更新が出来なくなった人もいたりしますが、自分はあえて更新し続けようと頑張ってます。

>ところでAKB48の「カチューシャ外しながら~」

あはは、そうですよね。だいたい、なんであのヘアバンド?をカチューシャって呼ぶのかわかりません・・。

>倒れた本棚にあったマンシュタインの「失われた勝利」(フジ出版社)を現在再読しております。

これはレオノスケさんの最初のコメントで書かれてたかなぁ?
我が家も本棚がひとつ倒れて、「失われた勝利」(フジ出版社)が吹っ飛んでました。
最初の頃に書いたレビューなんで、自分の記事読むの恥ずかしいんですよね。来年あたりに再読して、もう少しマシなレビューを書いてみたいと思っています。再読の感想、ぜひコメントしてください。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-24 21:48) 

レオノスケ

レス早!

>これはレオノスケさんの最初のコメントで書かれてたかなぁ?

よく覚えておられますね。光栄です。
グデーリアンの「電撃戦」もフジ出版社で欲しいなあ。
最近YouTubeでクノップの「ヒトラーの戦士達・マンシュタイン」を見ました。ローリングホーフェンも証言者として出てましたよ。

by レオノスケ (2011-06-24 23:07) 

ヴィトゲンシュタイン

>グデーリアンの「電撃戦」もフジ出版社で欲しいなあ。

先週、古書店で見かけました。本なのに存在感がハンパじゃない・・オーラが出てました。確かに欲しくなりましたね・・。

>ローリングホーフェンも証言者として出てましたよ。

お~、そうでしたか。ということで、数年前に買った「ヒットラーと将軍たち」のDVD-BOXからマンシュタイン引っ張り出して観てみました。
ローリングホーフェン、すっかりおじいちゃんになっちゃって、言われなきゃわからないですよねぇ。でも、久しぶりだったので、いろいろ考えさせられました。でもやっぱり45分程度でマンシュタインを理解し、評価しようとするのは無理があるなぁ。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-25 18:54) 

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